【7月26日 AFP】第79回アカデミー賞(The 79th Academy Awards)の最優秀外国語映画賞を受賞したドイツ映画『善き人のためのソナタ(The Lives of Others)』で、東ドイツ時代の秘密警察「シュタージ(STASI)」の局員を演じたドイツ人俳優ウルリッヒ・ミューエ(Ulrich Muehe、54)が亡くなったことが25日、家族の話で明らかになった。

 ミューエは22日にライプチヒ(Leipzig)の近くの町で胃癌のため倒れ帰らぬ人となり、25日に埋葬されたという。

 オスカーを受賞したミューエは、旧東ドイツの映画の繁栄を率いた俳優の一人であり、1989年のベルリンの壁崩壊後はテレビと映画の人気キャラクターであった。

 映画『善き人のためのソナタ』は有名な劇作家と恋人の盗聴を命じられたシュタージの局員の話である。ミューエ演じる局員は、その2人のやりとりに心を動かされて忠誠心が揺れ動き、投獄の危険を冒してまで2人を政府当局から守ろうとする。

 世界的に興行成績を上げた同映画は、モラルの崩壊と共産主義国の素晴らしい人情を鮮やかに描いた作品としてシュタージ・アーカイブ(Stasi Archive)代表のMarianne Birthler氏のお墨付きを得ている。

 一方、元反体制派はこの映画を、特にミューエが演じたヒーローに対して、こじつけたような理想的なシュタージのスパイ像であると異議を唱えている。

 ミューエは映画の中と実生活のでは異なる姿を見せた。2006年には元妻で女優のJenny Groellmannをシュタージへの情報提供をしていたとして訴えて、法廷での争いが公になった。

 当時、癌に苦しんでいたGroellmannは容疑を強く否定したが、裁判所が無罪を認める4か月前の8月に亡くなった。ミューエは今年のドイツコメディ映画で、興行収入は上げるものの、酷評的な失敗作だった映画『My Fuehrer--The Truly Truest Truth About Adolf Hitler』にも出演し、TVドラマシリーズの「The Last Witness」では犯罪科学捜査官を演じて、2005年のドイツのテレビ賞「the German Television Prize」を受賞している。

 ミューエと同じく東ドイツ出身のアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相はミューエを「優しい俳優の1人」とし、家族に哀悼の意を表した。

 「彼は俳優人生を通してドイツ映画の質を高め、自らの足跡を残した。俳優として他の誰よりも完璧なレパートリーを有していた」と話し
「ドイツ中が、亡き優れた芸術家で素晴らしい人柄に対し悲しみにくれている」と話した。

 ミューエの5人の子どもと妻で女優のスザンネ・ローター(Susanne Lothar)が後に残された。(c)AFP