【6月12日 AFP】アメリカのカウボーイ映画が、本当に日本の時代劇に影響を受けたものだとしよう。では、あるサムライ映画が西部劇にヒントを得たとしたら、それはどのようなものになるだろうか?

 日本で今、最も話題の監督、三池崇史(Takashi Miike)監督の目には、その答えはこう映った。ステットソン帽をかぶり、銃を身につけたタフガイたちが、鳥居の横で撃ち合いをする中世の日本だ。

 イタリアで制作されたウエスタン映画「マカロニウエスタン(Spaghetti Westerns)」をヒントに撮られた『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ(Sukiyaki Western Django)』で、三池監督はその答えを描いている。

 『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』は、イタリアのセルジオ・コルブッチ(Sergio Corbucci)監督が手掛けた1966年の『続・荒野の用心棒(Django)』をもとにしているが、時代設定は「平家物語」に描かれている12世紀の源平合戦以後の日本だ。

 11日に行われたクランクアップ会見に、トレードマークの暗めのサングラスをかけて登場した三池監督は語った。

 「マカロニウエスタンと呼ばれる作品をよく見てきました。その当時は、それらが日本の作品に影響を受けたものだと思っていました」

 「『平家物語』には、普遍のテーマが盛り込まれているのだと思います」

 三池監督はしばしば、同じくサムライ時代や暴力映画を撮る北野たけし(Takeshi Kitano)監督と比較、もしくは対照的に見られることがある。

 「私たちは世界中の人を楽しませる、素晴らしい日本映画を作ってきたと確信しています」

 三池監督の作品で最も知られているのは、2001年の『殺し屋1(Ichi the Killer)』だろう。主に女性をターゲットとしたサディスティックな空想を生きる青年が主人公で、過激な描写のため、日本国内及び海外で上映を見送る措置をとった映画館も出たほどだ。

 マカロニウエスタンや香港のカンフー映画をもとにした『キル・ビル(Kill Bill)』シリーズを撮ったクエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino)監督は、『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』にカメオ出演している。このカメオ出演を受けた理由について、三池監督が「今日、活動している監督の中で、最も偉大な監督の1人」だからだと答えた。

 9月に全国公開となる『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』は、言い方を変えれば、時代錯誤を気にしていない作品と言える。

 1185年に起こった壇ノ浦の戦いから“数百年後”という時代設定だが、酒場の酒瓶を撃つ、パンクのような髪型をした男達が登場する。また、ゴールドラッシュ時代の砂埃の舞うユタ(Utah)州の荒れ地が舞台になっている。

 日本映画に世界の注目を集めたいと語った三池監督は、この作品を全編英語で撮った。出演者には、英会話の短期集中コースを受けさせたという。

 ギャングたちが抗争を繰り広げる中、鳥居の下に登場するという主人公を演じる伊藤英明(Hideaki Ito)は、初めて台本を見たときの様子を次のように語った。

 「英語は話せませんでした。だから、とても難しかったです」

 「でも、日本人がウエスタン映画を撮るなんて無理だと誰かが言ったので、どうしても撮りたいと思うようになりました」

 例外はいるが、世界で第2位の興行収入をたたき出す日本には、ハリウッドで活躍する俳優は少ない。理由の1つとして、英語での撮影が苦手ということがある。

 この作品の数少ない女性出演者の1人で、ハリウッド映画『SAYURIMemoirs of a Geisha)』にも出演していた桃井かおり(Kaori Momoi)は、英語でのアドリブが難しかったと語った。

 「日本人の話す英語が受け入れられるようになれば、日本人俳優の幅も広がるでしょう」

 三池監督は、出演者たちに、できるだけ上手に英語を話すようにと言ったという。

 「この作品で使われているのは、日本の英語です。アメリカやイギリスで話される完ぺきな英語ではありません」

 「この作品が受け入れられれば、日本の英語はとても良いものとして知られるようになるでしょう」(c)AFP