【5月28日 AFP】第60回カンヌ国際映画祭(60th Cannes Film Festival)で、ルーマニアの低予算映画が最高賞「パルム・ドール(Palme d’Or)」を受賞した。ハリウッド並の予算がなくても優れた作品が作れることを表しているのだと、受賞監督クリスチャン・ムンギウ(Christian Mungiu)は語った。

■パルム・ドール受賞を喜ぶ監督

 パルム・ドール受賞作『4 Luni,3 Saptamini si 2 Zile』は、2人の女性を中心に、共産主義政権下の非合法中絶と、日常的な絶望感を描いた衝撃的な作品だ。「この受賞が、小さな国で小規模作品を制作している監督にとって朗報となることを願っています」と、ムンギウ監督はトロフィーを掲げながら、静かな語り口で述べた。

 「パルム・ドールはオスカーより重要です。この受賞によって、真の映画監督として認められたことになるのです」

 受賞作の脚本家、プロデューサーも務めるこの39歳の監督は、「誰もが心を傾けるような作品を作るためには大きな予算や大スターは要らない」とハリウッドに一撃を与えるような発言をして、ステージを下りた。

 受賞作は、教師、ジャーナリストという経歴を持つ監督にとって、まだ2作目。「今回の受賞は、すでに成功を認められてきたルーマニア映画の新しい波にとって、最もすばらしい出来事だ」

■ルーマニア映画「暗黒時代」からの復活

 ルーマニアでは、年間10~15本の映画しか制作されず、映画興行収入は、全興行収入の4パーセントにとどまっている。国内唯一の国立映画学校で学んだ、新しい世代の監督らは、ヨーロッパ映画界ではまだ新参者だ。

 しかし年々、東欧出身の若手監督への注目度が高まってきている。ムンギウら多くの監督は、1989年12月にチャウシェスク(Ceausescu)元大統領が死去したことで生まれた「post-December」派の一翼を担っている。

 ルーマニア映画が、「プロパガンダの道具でしかなかった共産主義時代、映画にとっての暗黒時代」からよみがえろうとしていると、プロデューサーのAndrei Broncaは、仏映画雑誌『Le Film Francais』に語った。

■高い評価を受ける近年のルーマニア映画

 『4 Luni,3 Saptamini si 2 Zile』は、今回の映画祭で「国際批評家賞(International Critics' award)」と「フランス国民教育大臣賞(French National Education Administration Prize)」も受賞した。

 また、26日には、同じくルーマニア出身のCristian Nemescu監督作『California dreamin’』が、「ある視点(un Certain Regard)」部門大賞を受賞した。Nemescu監督は2006年に、作品の完成を前に交通事故死している。
 
「ある視点」部門審査委員長を務めるパスカル・フェラン(Pascale Ferran)監督は同作品について、「こんなに生き生きとして自由な発想に満ちた映画を見たことがない」と語った。
 
 Cristi Puiu監督が手がけた『The Death of Mr. Lazarescu』は、2005年の「ある視点」部門での受賞とともに、同年、米ニューヨーク・タイムズ紙が選ぶ年間ベスト10映画にも選ばれている。
 また、2006年にはCorneliu Porumboiu監督作『12:08 East of Bucharest』がカメラドール(Camera d’Or:新人監督賞)を受賞している。

 「主にヨーロッパで、フィクションからアニメーションにわたり幅広く、ルーマニア映画への関心が高まっています」とルーマニア国立フィルムセンター(Romanian National Film Centre)のAndreea Tanase氏はAFPに語った。

「現在ルーマニアでは、複数の共同制作映画が進行中です。『4 Luni,3 Saptamini si 2 Zile』のような優れた作品への高い評価が追い風となっています」

 ムンギウ監督は、今回の受賞が「経歴の最後」とならないことを願うとし、「もっと作品を作っていきたい」と述べた。(c)AFP