【11月18日 MODE PRESS】フランス人デザイナーのアン・ヴァレリー・アッシュ(Anne Valerie Hash)が10月下旬に来日し、オートクチュールコレクションから貴重な作品の数々を東京・青山にあるデザインワークス コンセプトストアで展示、多くのプレス関係者らに披露した。

 すでに韓国、スイスでも同様のエキシビションが開催され、日本に到着したこれらのコレクションピースたちは、次にマカオへと旅立っていく。自身のファーストライン「アン・ヴァレリー・アッシュ」、セカンドライン「ア-ヴェ-アッシュ バイ アン・ヴァレリー・アッシュ(AVHASH BY Anne Valerie Hash)」とはまったく別の視点から取り組むオートクチュールについて、さらにはプロジェクト秘話を語ってくれた。

-今回このようなスタイルでエキシビションを実施するに至った経緯は?

 今回は、まさに世界中を飛び回るコレクションです。物作りをしているときは、あまり深く考えていませんでしたが、実際1月のオートクチュールコレクションでの発表後、周囲の反響を考慮してこのような形式で発表することにしました。

-今回のプロジェクトについて教えてください。またどのようにして形になったのですか?

 ファッション、アート、俳優、歌手などのジャンルにおいて、交流のある方に「新しいプロジェクトのために、あなたの好きな服、嫌いな服、あなた自身を表す服をください」という内容の手紙を一人一人に送りました。それを理解してくださった方たち、アルベール・エルバス(Alber Elbaz)、ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)、ティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)、ピート・ドハーティ(Pete Doherty)、シャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)、イリーナ・ラザレーヌ(Irina Lazareanu)など総勢14名から、色も形も素材も違う、とにかくさまざま服を提供してもらうことが出来ました。

 服が届く度に並べて眺めながら、私はなんてプロジェクトを始めてしまったんだろう・・・と後悔した瞬間もあったほど、壮大なプロジェクトでした。チュチュ、 パジャマ、スニーカーにショール・・・色も、サイズも、素材もそして形も違うアイテムが目の前に並ぶ。一度は頭を抱えたものの、つまり「再生と復興」なんだと考えることにしました。

 まず表現するにあたって、バラバラのものをリンクさせる素材を選びました。それがスパンコールです。さらに、ワンピースというテーマを全ての作品に共通させることにしました。シャツとジャケットがくっついたアイテムなど。

 元々の持ち主であるその人のことを考え、理解しながら、そしてリスペクトしながら・・・形になっていく過程は、なんともエキサイティングで素晴らしい経験でした。

-オートクチュールについて思うことは?

 これまでのクチュールというとドレス(モノ)にフォーカスされますが、私はモノにフォーカスするのではなく、コンセプトに集中したのです。                    

 そもそも、クチュールという世界は数字的な意味で顧客の数や売り上げを増やすということではなく、物作りの原点に戻るということ。ファーストラインとセカンドラインではもちろんセールスをあげなければいけないけれど、私にとってクチュールとは、クリエーションのリフレッシュという意味合いもあります。

 オートクチュール協会から、発表する機会をいただいていることになにか恩返しをしなければいけない、そんな想いも常に持っています。私には、シャネルやディオールがやるような伝統的なドレスを発表するのではなく、“新しいなにか”を求められていると感じています。オートクチュールの世界では、自分はまだまだヤングジェネレーション。私にできることをやるべきだと思います。みんな同じようなやり方を続けていれば、そのうちクチュールはなくなってしまう。だからこそ、参加する意義があるのです。

 もちろん、オーソドックスなクチュールをやることはできるんですよ。でも、私の価値観とは違う。私は、新しいものを過去のものでつくりたいのです。以前から、昔のものや人、時代に興味がありました。そしてそれらに対しての敬意も同時に持っています。そんな常日頃からの想いが、今回のコレクションに反映されたのです。

-物作りについて  昔のモノに対して理解し、尊敬した上で自分にできるスペシャルなことを表現したい。結果ではなく、その裏には職人がいて・・・ 服を提供してくれた全ての人が、今回の形を喜んでくれました。

 そもそも服とは、人の手によって美しいモノがつくられ、世代を超えて人の手にわたっていた。しかし今、服はトレンドに左右されていて、ワンシーズン着たら終わってしまうようなものになってしまいました。過去へのリスペクトが失われている。だからこそ、私はコンセプトにこだわりたい。服を通して、メッセージを 受け取ってくれる人がいる限り・・・

=後記=  今回のプロジェクトのためにアルベール・エルバスは普段着ているパジャマを提供してくれたという。学校から帰るとまずパジャマに着替えていた子供の頃、今も仕事から帰ってくるとパジャマに着替える。これから先、年老いても彼はパジャマを着るだろう。そんな一人の人生、過去・現在・未来をアン・ヴァレリーは表現したかったのだろう。

 余談だが、後日エルバスは「僕のパジャマ、どうなった?いつ返してくれるの?」と連絡してきた。プロジェクトをあまり理解しないままに、いつも使用している パジャマを提供してくれたようだったが、すでにパジャマは原形を留めておらず返すことは不可能。後日、新しいパジャマを買って返したところ、「新しいパジャマをありがとう!」というメモ書きが返ってきたという。【岩田奈那】(c)MODE PRESS