【9月7日 AFP】アフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)からの逃亡劇をつづった回想録を出版し、映画化もされたインド人女性作家スシュミタ・バネルジー(Sushmita Banerjee)さん(49)が、タリバンとみられる武装グループに射殺された。アフガニスタン警察当局が5日発表した。

 情勢不安が続くアフガニスタン東部パクティカ(Paktika)州の警察当局によると、バネルジーさんの遺体は5日朝、州都シャラン(Sharan)郊外のイスラム神学校近くで見つかった。バネルジーさんは4日夜、同州内の自宅で覆面をした武装集団にアフガニスタン人の夫ともども縛り上げられた後で連れ去られ、警察が行方を捜していた。

 遺体は20発以上撃たれており、頭髪の一部が引き抜かれていたことから、警察ではバネルジーさんの過去の出版物や発言に強い憤りを持つ者の犯行とみている。特に、1990年代にタリバンに捕らわれながら脱出を果たした体験を明かした著書「Kabuliwala's Bengali Wife(カブール商人のベンガル人妻)」を理由とした「処刑」ではないかという。

 アフガニスタン人ビジネスマンと結婚していたバネルジーさんは最近、夫と暮らすためパクティカ州に戻ったところだった。報道によれば、女性向け診療所を開設する計画だったとされる。

 アフガニスタンでは2001年に政権の座から追われたタリバンが武装闘争を続けており、多くの犠牲者が出ている。バネルジーさん殺害事件に関して、タリバン側のコメントは得られていない。

■脱走し連れ戻され、また脱走

 バネルジーさんの著書「Kabuliwala's Bengali Wife」は2003年にインド・ボリウッド(Bollywood)で映画化された。その劇的な逃避行については、バネルジーさん自身が1998年に雑誌記事で次のように語っている。

 バネルジーさんは1989年、夫とともに、親族の住むアフガニスタンの村に移住した。しかし、急な出張でインドに行った夫が帰国できなくなった後、村から出ることを禁じられてしまった。

 それでも、1993年にタリバンがやって来るまでの生活は「我慢できるもの」だったという。タリバンはバネルジーさんが経営していた診療所を閉鎖するよう命じた。バネルジーさんは何度かアフガニスタンからの脱出を試み、1994年にパキスタンの首都イスラマバード(Islamabad)へ逃れることに成功したが、夫の親族が追ってきて再びアフガニスタンに連れ戻されてしまったという。

 ふしだらな女の烙印を押されたバネルジーさんは、自宅軟禁下に置かれた。タリバンから脅されており、何としても逃げなければならないと決意したという。

 ある夜、家の土壁の下にトンネルを掘って脱走し、首都カブール(Kabul)近くまで逃げたが、また捕まってしまった。15人ほどのタリバンのメンバーに尋問され、夫の家からの逃亡は死罪に当たると言われたという。だがバネルジーさんは、自分はインド人であり母国に戻る権利があると訴えた。

 尋問は夜通し続いたが、バネルジーさんは翌朝、インド大使館に連れていかれた。安全にインドのコルカタ(Kolkata)に戻ったバネルジーさんは、ようやく夫と再会できたという。

 この記事の中でバネルジーさんは、「夫が故郷の家族のもとに戻ることはないと思う」と語っていた。(c)AFP/Khan Mohammad