【5月19日 AFP】南アフリカの1日あたりの殺人事件は約50件。この衝撃的な統計結果の影に犯罪の内訳が隠れて分かりにくくなっているが、実は、観光客に対する凶悪犯罪は極めて少ない。

 サッカーW杯の開幕が来月11日に迫った南アだが、世界中から37万3000人のサッカーファンが訪れると想定されている期間中に最も懸念されていることの1つは、やはり「治安」だ。

■英国では、危険な国ランキングの10位

 英国のあるタブロイド紙は最近、南アで観戦するサッカーファンに対し、なたを使った脅迫に注意を呼び掛ける記事を掲載。一方ネットでは、観戦客向けに、サッカーのバッジと一緒に防刃ジャケットが販売されている。

 だが、英外務省の統計では、南アは「英国人観光客にとって最も危険な国」ランキングの10位に過ぎない。

 前年南アを訪れた、または南アに滞在した英国人は87万人。そのうち、現地の領事館に助けを求めてきたのは139人で、スペインの5500人、フランスの2000人を大きく下回っている。

 また、現地で入院するケースも、行き先別ではタイ、ギリシャ、エジプト、インドが群を抜いている。これらの国々では、観光客が性犯罪や薬物犯罪に巻き込まれる事例が多い。

■ドイツとフランスの統計でも「犯罪に巻き込まれる確率低い」

 ドイツでは、ブンデスリーガ1部のバイエルン・ミュンヘン(Bayern Munich)のフランツ・ベッケンバウアー(Franz Beckenbauer)名誉会長が南アで観戦するサッカーファンに対し、「行く先々で常に用心するように」と呼びかけているが、同国の統計は、観光客が犯罪に巻き込まれる確率が高くはないことを示している。

 南ア・プレトリア(Pretoria)のドイツ大使館の関係者は、「今年第1四半期に南アで犯罪の被害に遭ったドイツ人観光客は1人もいなかった」と強調した。

 フランス大使館も、フランス人観光客が殺害される事件は極めてまれであるため、(自国民が巻き込まれた犯罪に関する)統計さえとっていないと回答した。

■殺人の大半は最貧困地区 

 南ア・安全保障研究所(Institute for Security Studies)のガレス・ニューハム(Gareth Newham)氏によると、南アで起こる殺人事件の80%は、知人同士の間で起こっており、うち50%以上は口論がアルコールの影響で暴力に発展した末に行われているという。

 また、犯罪の場所も非常に限られている。主に、観光客がめったに足を踏み入れないような最貧困地域で起こっているため、観光客はたいがい、犯罪に巻き込まれることはないのだという。

「W杯期間中は、スタジアム、ホテル、その他観光客が行きそうなありとあらゆる場所で厳重な警備が敷かれるため、暴力が頻発する事態にはなり得ないだろう」とニューハム氏は言う。

 だからといって、窃盗やスリといった小さな犯罪も一掃されるというわけではない。12月には、覆面をした複数の男がホテルの部屋に押し入り、中にいた2人のドイツ人観光客をロープで縛り上げたうえ、財布などを盗むという事件が発生した。2人にケガはなかった。

 だがそれでも、重警備のおかげで、期間中はこうした犯罪も減少するだろうとニューハム氏は指摘する。

■警官の人口比、英国を上回る

 南ア政府は、警官4万1000人の新規採用、訓練、装備の調達に13億ランド(約156億円)を費やした。

 ベキ・ツェレ(Bheki Cele)警視総監によると、同国には今や、人口4700万人に対して18万6000人の警官がいる。人口6000万人に対して14万人の英国をはるかに勝っている。 

 総監は、「外国人により犯罪が持ち込まれる危険性」にも万全な態勢を整えている、とも述べた。例えば、氏名が特定されている英国のフーリガン3000人の入国を阻止する予定だという。

 家族そろってサッカーを観戦する、といった文化が根付いている南アでは、フーリガン行為はほとんど見られない。

■犯罪に遭うリスク高いのは「周辺国からの観光客」

 犯罪被害に遭うリスクが最も高いと考えられているのは、周辺国からやってくる推定8万人の観光客だ。彼らは南アの犯罪の「震源地」とも言うべきスラム街で、友人や親族宅に滞在すると見られている。 

 先のニューハム氏によると、各種統計には、犯罪に巻き込まれる確率は南ア人よりも、アフリカ大陸内からの移民が多いことが示されているという。(c)AFP/Charlotte Plantive