【5月11日 AFP】07年にガンのため69歳で亡くなった香港(Hong Kong)有数の大富豪、故・王如心(英名ニナ・ワン、Nina Wang)さんが遺した推定1000億香港ドル(約1兆2600億円)相当の不動産をめぐり、ワンさんの遺族が運営する慈善財団が、相続を主張する風水師の元愛人を訴えた裁判が11日、現地の高等法院で開始された。

 一時期は「アジアで最も裕福な女性」と言われたワンさんの遺産をめぐって争っているのは、香港有数の不動産開発グループ「華懋(チャイナケム、Chinachem)」の会長だったワンさんの兄弟が現在、運営しているチャイナケム慈善財団(Chinachem Charitable Foundation)と、愛人だったとされる事業家で風水師の陳振聰(Chan Chun-chuen、英名トニー・チャン、Tony Chan)氏。

 8週間の裁判で、陳氏の主張どおりワンさんが全資産を同氏に遺したのかどうかを審理する。チャイナケム慈善財団側は、陳氏の持つ2006年の遺言状の署名は偽造されたものだと反論している。
 
■故人となっても群がる香港メディア

 富豪たちの一挙手一投足に、人びとがとりつかれたように注目する香港で、生前のワンさんに関する話題は、誘拐から占い、セックスと金、家族間の不和、フライドチキンを好む意外な食事と目まぐるしく、地元の関心を集めるに十分だった。

 口頭弁論初日のこの日も、高等裁判所の前には傍聴を希望する人の長い列ができ、著名弁護士らによる弁護団に囲まれて髪をそりあげた陳氏が入廷すると、報道陣が押し合いながらその姿をとらえようとした。

 弁論開始の冒頭、慈善財団側の弁護士デニス・チャン(Denis Chang)氏は、「ここは法を裁く場であり、風水のための庭ではない」と述べ、陳氏の主張は無視すべきだと強調した。同弁護士は、ワンさんの健康状態がまだ悪化していない2002年に、夫と設立した同財団への相続を記した最初の遺言状を認めるべきだと主張し、「子どものいなかった2人にとって、チャイナケムは子どもに等しい存在だった」と述べた。

■注目される筆跡鑑定家の証言

 ワンさんの遺産は、正確な評価は困難だが、総額で最高1000億香港ドル(約1兆2600億円)とも言われる。

 ミニスカートにお下げ髪といったいでたちで知られたワンさんは、夫の故テディー・ワン(Teddy Wang)前会長の遺産をめぐって生前8年間にわたり、夫の実父と法廷での争いを繰り広げた。この裁判の間、実父側はワンさんが「遺言状を偽造した」と訴えていたが、裁判はワンさんが勝利して終わった。

 ワン氏は90年に2度目の誘拐の被害に遭い行方不明となり、9年後に法的に死亡が宣告された。ワンさんはその後、夫の会社だったチャイナケムを引き継ぎ、不動産業界の一大グループにのし上げた。

 しかし、ワンさんは夫が殺害されたと信じたことは一度もなく、自分の死の直前まで行方を捜していたことが、この日の弁論で明らかにされた。

 一方で風水師の陳氏はワンさんの死後、それまで長年の付き合いがあったこと、最後は愛人関係にあったことなどを公にした。ワンさんの遺族はこうした陳氏の発言や主張を否定し、2002年に書かれた遺言状が有効だとしている。今後の弁論で遺族の財団側は、筆跡鑑定で陳氏への遺言状は偽造だと結論付けた専門家などを証人として招く。

■倹約家だった大富豪  

 報道によると、ワンさんは倹約家だったことでもよく知られていた。ひと月3000香港ドル(約3万8000円)足らずで暮らし、チケット購入の際には値引きチケットを買い、衣類は友人の手作りしたものを身につけ、食事はファストフードが多く、特にケンタッキー・フライド・チキン(Kentucky Fried Chicken)とマクドナルド(McDonald's)が好きだったという。晩年の数年間は、香港で広く人気のある古代中国の風水学に興味を持っていた。

 陳氏のような風水師の助言は香港では非常にありがたがられ、カルト宗教のような信者まで生み出している。(c)AFP/Guy Newey