【10月28日 東方新報】ひと昔前の中国と言えば「自転車の波」のイメージが浮かぶが、今は電動自転車の保有台数が3億台を超え、新たな国民の足となっている。しかしここ2年ほど電動自転車の火災が相次ぎ、今年はすでに1万件を突破。死者も出ていて社会問題となっている。

 日本で電動自転車というとペダルをこいで走行する電動アシスト自転車のこと。中国の電動自転車はハンドルのアクセルを握るだけで走行するので、実質は電動スクーターだ。ペダルは走行中にバッテリーが切れた時に使うぐらい。2000元(約3万5653円)もあれば購入でき、時速は20キロ以上出るが免許はいらない。経済成長に伴い自動車保有者が増え、都市では交通渋滞が悪化している中、電動自転車は日常生活に欠かせない存在になっている。

 ただ、安全生産や災害管理を管轄する応急管理省によると、今年第1~9月に全国で報告された電動自転車の火災件数は1万30件に達した。約8割がバッテリーの充電中に発生しており、その多くがリチウム電池の発火によるものという。9月20日未明には北京市通州区(Tongzhou)の集合住宅で火災が発生し、5階に住む家族5人が死亡した。3階の住民が電動自転車のリチウム電池を自宅で充電中、バッテリーが炎上したとみられる。バッテリーはフル充電すると数時間はかかるため、帰宅後の就寝中に室内で充電することが多い。しかし相次ぐ発火事故に、市民からは「爆弾を自宅に持ち込んでいるようなものだ」という声が噴出している。

 電動自転車は大きく分けて鉛蓄電池とリチウム電池の2種類がある。中国では鉛蓄電池が主流だが、2018年に「電動自転車の重量は55キロ以下にする」という国家規格が設けられると、重さ10キロ以上もある鉛蓄電池のバッテリーから数キロ程度のリチウム電池のバッテリーに切り替えが進んだ。しかしこのリチウム電池の耐久安全性が問題となっている。

 専門家によると、リチウム電池は鉛蓄電池よりエネルギー密度は高い一方、電解液の可燃性も高い。電動自転車のリチウム電池は数十個の電池を直列・並列に組み合わせているが、充電しても不具合のある電池が「俺はまだ腹いっぱい食べていない」と充電を求め続けると、過充電となって他の電池が発火してしまうという。リチウム電池使用の電動自転車のシェアは新国家基準前の3%から15%に増えた程度だが、火災トラブルが集中して発生している。中国自転車協会の陸金竜(Liu Jinlong)副理事長は「2018年の新国家規格前は、電気自動車の発火や爆発事故はずっと少なかった」と話す。

 バッテリーを自宅に持ち込まずに済むよう、地域の駐車場や公園などに充電スタンドを設立する動きも出ているが、コストや安全管理の問題からあまり広まっていない。一部のメーカーはより安全なナトリウム電池のバッテリーを開発しているものの、リチウム電池よりエネルギー密度が低く、市場に出回るにはまだ時間を要する。そもそもリチウム電池は電気自動車でも使用されており、それ自体は危険性が高いわけではない。メーカー間の価格競争で品質に問題のあるリチウム電池が流通しているのが問題だ。当面は行政がリチウム電池の品質基準を強化し、企業が改善に取り組むことが急務となっている。(c)東方新報/AFPBB News