【12月18日 東方新報】11月に小学生52人が乗った修学旅行中の小型船が瀬戸内海で沈没し、全員が救助されたニュースに、中国で「中国の子どもなら泳げないし、団体行動が取れない」「日本の体育教育を見習うべきだ」と驚きの声が上がっている。

 事故は先月19日夕方、香川県県坂出市の沖合で発生。小型船に漂流物が衝突して浸水した。児童は船長たちの指示に従いライフジャケットを着用し、デッキに移動。船の大半が沈むと海に飛び込んで浮きにつかまって救助を待ち、近くにいた漁船や高松海上保安部の巡視艇に救助された。最初に駆けつけた漁船が児童に「順番に泳いでこい」と呼びかけた際、児童は互いに押しのけることなく、漁船まで泳いでたどりついた。

 中国共産党の若手エリート組織・中国共産主義青年団の機関紙「中国青年報(China Youth Daily)」は今月8日、「日本で起きた沈没事故は半月たった今でも中国で注目を集めている」と報道。「児童たちは海に飛び込んだ後、応援し合い、助け合いながら救助を待った」と称賛し、中国の子どもが同じ行動を取れるかどうか疑問を投げかけた。「冷たい海水の中で長く持ちこたえる身体能力があるか、突然の事態に自分で自分の命を守る訓練が行われているか。いずれも教育と切り離すことはできない」と指摘している。

 他の中国メディアも日本の体育教育について取り上げている。まずは「日本の小学校はプールの設置が法律で義務付けられており、世界でも珍しく、全児童が小さい頃から水泳の授業を受けている」という指摘が目立つ。また、「日本の体育の授業は体力の強化だけが目的ではない。クラスを紅白に分けてチーム一丸となって勝利を目指すように、団体行動を学ぶことも目的としている」「運動会でも綱引きや二人三脚など、協調性を重視する種目が多い」と分析している。

 また、今回の沈没事故で、泳ぎが得意な児童が仲間たちに「僕が先に飛び込むから、君もがんばって」と呼びかけたことにも振れ、互いを助け合う精神が全員救助の結果につながったとたたえている。「日本では幼稚園から器械体操をしたり、はだしで走ったり基礎訓練を積んでいる。中国の幼稚園では見られない」と小学校入学以前から日中で差があることも指摘されている。

 実は、今回の沈没事故で犠牲者がゼロだったことはさまざまな要因がある。ライフジャケットが全員分用意されていたこと(小型船で乗員が12歳未満の場合、法的には2人に1着でも可)。海中で低体温症になることを心配した船長らがすぐに児童を海に飛び込ませず、船が沈む寸前までデッキに移動させたこと。また、海水温が約20度で、命に影響を与える目安の17度よりは高かったこと。専門家はこれらの要因も大きいと指摘している。

 それでもこの事故を巡り、中国で日本の体育教育や児童の体力、協調性が着目されるのは、中国の子どもの現状に問題があると感じているからだ。中国ではこの10年間で肥満の子どもは3倍に増え、約5300万人が肥満児とされる。12歳から18歳までの子どものうち約2%が糖尿病に悩まされているというデータもある。中国の子どもはほとんどが一人っ子で、日本以上に受験勉強が熾烈(しれつ)なため、小学生から猛勉強を余儀なくされている。親や教師は運動を軽視する傾向があり、子どもたちは体を動かしながら団体行動や協調性を学ぶ機会が少ないのが実情だ。中国の子どもをめぐる現状を見つめ直す機会として、日本の今回の事故に注目が集まっているといえる。(c)東方新報/AFPBB News