【3月25日 CNS】「OPCなら、AIを使えばかなりのことができる」

そう語るのは、90後(90年代)生まれの海外留学経験を持つ博士で、北京時間茧教育科技のCEOを務める李涛(Li Tao)さんだ。この会社は少し変わっている。必要なのは一人の人材と1台のパソコン、そして一式の人工知能(AI)ツールだけ。それが会社の全ての「資産」だ。まさにこれが、一人会社(OPC、One Person Company)の典型的な姿だ。

深セン大学(Shenzhen University)文化産業研究院の張振鵬(Zhang Zhenpeng)教授は「三里河中国経済観察」の取材に対し、「OPCの本質は、突出した個人とAI技術ツールが深く結びついた、軽資産で効率の高い組織形態にある」と語った。その最大の原動力となっているのがAIだ。AIエージェントの進化によって、デジタル従業員はコンテンツ制作、プラットフォーム運営、ブランド構築、法務相談など、ほぼあらゆる職種に相当する能力を備えるようになり、OPCという形が現実のものとなった。

2025年8月、国務院は『「人工知能+」行動のさらなる実施に関する意見』を発表し、初めて「スマートネイティブ企業」という概念を打ち出した。これは、企業の基盤構造や運営ロジックそのものがAIを前提として成り立っている企業を指す。

OPCは、まさにそのスマートネイティブ企業の最小単位の実践例といえる。低コスト、小規模、高速な試行錯誤、高い成長性が、その大きな強みとみなされている。李涛さんは「軽量で柔軟、しかも意思決定が速いという特性があるため、ターゲットユーザーの需要により近いところで動け、市場の変化にも素早く対応できる」と「三里河」に語った。張振鵬教授は、OPCは社会の中に眠る専門能力を市場で有効に生かせる供給へと変え、従来の雇用関係が個人の価値を縛っていた構造を打ち破る可能性があるとみている。

雇用の安定にも起業促進にもつながるとして、OPCをめぐっては各地で争奪戦のような動きが起きている。最近では北京市、深セン市、武漢市(Wuhan)などが相次いで具体的な支援策を打ち出した。たとえば深センは、「同じビルの上下階がそのまま産業の上流と下流になる」産業エコシステムの構築に力を入れ、最大1000万元(約2億2927万円)の訓練用計算資源クーポン、200万元(約4585万4800円)のモデル利用クーポン、200万元のデータクーポンを用意した。

武漢は、全工程にわたる利便性と低コストを打ち出し、OPCのスタートアップ企業に最大100万元(約2292万7400円)を助成し、データ関連の補助は最大200万元に達する。

北京経済技術開発区では、AIモデルやデータを活用するOPCコミュニティーの整備が始まり、毎年投入される計算資源クーポン、データクーポン、モデルクーポンは最大3億元(約68億7822万円)に上る。

一人会社は規模こそ小さいが、AIを現実の産業に落とし込めるかを試す重要な実験の場になっていることが分かる。技術が本当に個人を力づけられるか、政策が革新の芽に的確に届くか、そして都市が「一人でも戦力となり、集まれば生態系を成す」産業構造を築けるかが、ここで問われている。

AI産業のエコシステムは、いま地方政府の上層部が強い関心を寄せる戦略分野となっている。その重視ぶりは、春節(旧正月、unar New Year)以降の地方トップによる視察の動きからもうかがえる。北京市トップは科技企業を訪れ、「AI技術発展の好機をしっかりつかむべきだ」と強調した。広西チワン族自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)トップは香港科技大学(The Hongkong University of Science and Technology)を訪れ、講演でもAI活用を中心テーマに据えた。

OPCは、AI産業の生態系における最小の実験場でもある。実際の起業や就業を通じてAI産業の価値を確かめ、技術を実体経済へ流し込み、「早い段階で、小規模でも、ハードテックに投資する」という現実的な考え方を体現している。

張振鵬教授は「このモデルの発展は、デジタル経済が組織依存を弱め、個人への支援を強め、高い柔軟性を備える方向へ進む流れと完全に一致している」と指摘する。李涛さんも、OPCという形で事業を運営することで、製品改良や市場投入をより機敏に進められ、個人起業家や小規模チームの軽量な開発ニーズに的確に応えられると語る。

OPCが各地で広がるにつれ、新たな産業空間の形として「OPCコミュニティー」も生まれつつある。2025年9月、李涛さんの会社は正式に北京・中関村のAI北緯コミュニティーに入居した。ここが打ち出しているのは、まさにAI・OPCにやさしいコミュニティーという考え方だ。こうした空間では、通常のオフィスよりもコミュニティー性が重視される。賃料ゼロ、あるいは低賃料を特徴とし、「同じビルの上下階がそのまま産業の上流と下流になる」ような協業環境をつくり、リスクを分かち合い、能力を補い合う小規模な産業エコシステムの形成を目指している。それは、前にも後ろにも動きやすい柔軟な働き方を生み出す。個人は単独で事業を立ち上げることもできれば、より大きな産業ネットワークの中に組み込まれることもできる。

張振鵬教授は、OPCは大手企業と「中核能力への集中+細分化された業務の外部化」という協力関係を築けるとみている。大企業は中核技術の開発やブランド運営に専念し、OPCは細かな分野の革新的サービスや柔軟な納品を担うことで、産業チェーンの分業構造を最適化し、産業エコシステム全体の強靭さと革新効率を高められるという。

もっとも、この未来を左右する競争は、まだ始まったばかりだ。今後、政策が継続的に実行されるのか、エコシステムが本当に形になるのか、個人が持続的に成長できるのか――。こうした点こそ、一時的な熱狂以上に注目すべき課題だ。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News