【5月8日 AFP】米国の国際政治学者で、ビル・クリントン政権で国防次官補も務めたジョセフ・ナイ氏が6日に死去した。88歳。米ハーバード大学が7日、明らかにした。自国の価値観や文化で魅了して他国を味方に付ける「ソフトパワー」の提唱者として知られるが、ソフトパワーは今、ドナルド・トランプ大統領に嘲笑されている。

ナイ氏は1964年からハーバード大学で教鞭をとり、同大の行政・政治学大学院であるケネディスクールの学長も務めた他、ジミー・カーター政権とクリントン政権で要職を務めた。

14冊の著書と200本以上の論文を執筆。ネオリベラリズムの提唱者でもある。軍備管理や汎アフリカ主義など、多岐にわたるテーマを研究したが、1980年代後半にソフトパワーという概念を提唱したことで最もよく知られるようになった。

武器や経済制裁といったハードパワーとは対照的に、ソフトパワーは価値観や文化で他国を味方に付ける力を指す。

ナイ氏は2004年、このテーマに関する著書で「自分が望む結果を他者に求めさせるソフトパワーは、相手に強制するのではなく、相手を取り込む」ことを意味すると記している。

例として、フランクリン・ルーズベルト大統領が「善隣政策」を取った際に中南米における米国の影響力が増大したことや、逆にソ連がハードパワーを強めたにもかかわらず、残虐な行為によって東欧を失ったことを挙げた。

トランプ氏は1月の政権復帰以降、対外援助の削減や留学生の取り締まりなどを通じて米国のソフトパワーを大きく弱め、軍事費の増額を図ってきた。

ナイ氏は今年2月、AFPの取材にメールで応じた。トランプ氏の2期目についてどのように考えているか尋ねると、ナイ氏は「トランプ氏は権力を本当の意味で理解していない。強制と報復の観点でしか考えていない」と回答。

「彼は短期的な結果を長期的な影響と勘違いしている。(関税の脅しなどの)強い強制力は短期的には効果を発揮するかもしれないが、長期的には他国が米国への依存度を下げる誘因となる」と続けた。

「過去80年間の米国の成功もまた、魅力に基づいてきた」と述べる一方、米国のソフトパワーにも周期があったとして、ベトナム戦争時の不人気ぶりを指摘。

「トランプ氏の退任後、米国の人気はいくらか回復するだろうが、彼は米国への信頼を損なった」と批判した。(c)AFP