【5月3日 AFP】顔にけがをしたオランウータンが、自ら薬草を塗って傷を治そうとする様子が観察されたとの報告が2日、科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)」に掲載された。野生動物が薬草を用いて積極的に治療を行う姿が体系的に記録された初めての事例だという。

 2022年、インドネシア・スマトラ(Sumatra)島北部にあるグヌン・ルスル国立公園(Gunung Leuser National Park)で追跡調査の対象となっていた雄のオランウータン「ラクース」が、顔に傷を負った。

 3日後、研究チームはこのオランウータンが、ツヅラフジ科の「フィブラウレア・ティンクトリア」と呼ばれるツル植物の葉をかんでいるところを目撃した。この植物は薬効があることで知られ、地元で長らく伝統薬として使われていた。

 インドネシアとドイツの科学者による論文は、このオランウータンが「かみ始めた葉を飲み込まずに、指を使って口から顔の傷へ直接、汁を塗っていた」と説明している。さらに傷口にハエが止まり始めると「傷口全体につぶした葉を塗り、(むき出している)肉を完全に覆った」。

 ラクースは翌日も再び、同じ植物の葉をかんでいた。1週間後には傷口がふさがり、その後、感染症の兆候もなく傷は治癒したという。

 研究チームは、この行動について「野生動物が生物学的な有効成分の含有が知られている植物種を用いて、積極的に傷の治療を行う様子が体系的に記録された初めての事例」だと述べた。

 この行動が意図的だったかどうかは断定できないが、葉と汁を傷口にのみ繰り返し塗ったことから、けがの治療を試みていたことを示唆しているとした。

 ラクースはおそらく最初はこの植物をかみ、その後、傷口に触れたときに汁が痛みを和らげてくれることに気付くなど、この治療法を偶然学んだのではないかと科学者らは推測している。

 オランウータンは互いに観察を通して技術を学び合うことが知られているが、科学者たちによればこの地域で21年間、2万8000時間の観察を行った間に同様の行動の記録は存在しない。

 ただし、ラクースは他の地域から移り住んできたため、別のコミュニティーでこの技術を学んだ可能性がある。

 この観察によって、霊長類が健康を維持するために植物を利用する方法に関する証拠が増えた。これまでには抗寄生虫作用のある葉を丸ごと飲み込む例が記録されている。

 またインドネシアの別の場所では、種類の植物の葉をかんで皮膚にすり込む別のオランウータンの目撃例もある。(c)AFP/Sara HUSSEIN