【11月15日 東方新報】中国の人口は2022年、過去61年で初めて減少に転じ、少子高齢化は解決すべき喫緊の課題であることは誰の目にも明らかになった。そうした中で、生殖補助医療を医療保険のカバー範囲にして出生率を上げようという動きが始まっている。

 先陣を切ったのは、今年7月から生殖補助医療の16項目を保険の対象にした北京市で、広西チワン族自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)もこれに続いた。同自治区医療保障局によれば、体外受精の技術を含む一部の生殖補助医療が、11月から医療保険と労災保険の支給対象となる。

 この知らせを、同自治区の中心都市、桂林市(Guilin)に住む女性は、特別な思いで聞いたという。「北京市で保険支給が実施された時、広西ではいつになるのかと思いました。まさか本当にこちらでも支給が実施されるなんて」

 不妊治療を受けているこの女性はすでに、体外受精させた受精卵を子宮に移植する治療などを受けたが、結果は思わしくなく妊娠には至っていない。これまでに5万元(約104万780円)近くに達した費用は、女性の家庭では許容範囲だというが、不妊に悩む家庭が必ずしもこの家庭のような経済状況にあるわけではない。

「中国の高齢不妊女性生殖補助臨床実践ガイド」によれば、35歳以下の女性が体外受精で出産に成功するには、平均で3治療周期が必要という。1回の採卵周期にかかる費用は約3万3000元(約68万6914円)から約4万2000元(約87万4255円)で、1回の出産に少なくとも10万元(約208万1560円)かかることになる。保険適用が、不妊治療に二の足を踏む家庭の背中を押す効果は確かにあるだろう。

 不妊治療には長いプロセスが必要で、その負担は金銭面だけではない。採卵、体外受精、胚移植、着床などのそれぞれの段階で緊張と忍耐を強いられ、精神的なストレスは大きい。そこに、高額な費用をかけながら「また失敗してしまったら」というプレッシャーを感じる人も多いだろう。保険適用が金銭面以上の効果をもたらすであろうことは、先の女性の言葉が物語る。

「本来は年明けにもう一度治療を始めるつもりでした。今回は医療保険が使えることになったので、心理的な負担も軽くなりました」

 中国には600以上の生殖補助医療機関があり、その技術に助けられ生まれた子どもはすでに30万人以上、総出生数の3〜3.5パーセントを占めるという。少子化対策に生殖補助医療の役割への期待が高まるのもうなずける。

 西安交通大学(Xi’an Jiaotong University)人口発展研究所の姜全保(Jian Quanbao)教授は、「生殖補助技術を医療保険の対象とすることは、出産を促すための具体的な措置だ」と評価する。その上で、少子化が進んだ根本的な背景である、女性が高等教育やキャリアを追求し、子どもを欲しがらなくなった価値観の変化や、住宅や教育コストといった社会環境の課題を見据える必要があると指摘する。

 姜教授は「出生率を上げるためのより重要で緊急な課題は、住宅や教育での改革かもしれません。また、低出生率に適応しながら長期的な低出生率に対応した措置を取るべきです」と提言している。(c)東方新報/AFPBB News