カラーパレットのような中国の「死海」 豪商を生み出した塩湖の今
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【7月21日 東方新報】中国の「死海」とも呼ばれ、世界三大内陸塩湖として知られる山西省(Shanxi)運城市(Yuncheng)の運城塩湖が、気温上昇の影響で色とりどりに染まった。上空から撮影した写真を見ると、まるでカラーパレットのようだ。
湖の色が変化するのは、シオヒゲムシという藻類の影響だという。この藻類は通常の海水環境では緑色だが、塩分の高い環境や光が強い環境では、細胞を保護するために緑黄色野菜などに含まれるカロテノイドを生成する。猛暑で湖や塩田の水分が蒸発して塩分濃度が上がると、藻類のカルテノイドで色とりどりに変化するのだ。
山西省の運城塩湖といえば、中国では歴代王朝が戦略資源である塩を確保するために重視してきたことでも知られる。この塩の輸送や取引で財を成したのが山西省の商人たちである。
明代には山西省が 「晋」という地名だったことから「晋商」と呼ばれる。塩から始まり、シルクや茶葉、金融業を営み、中国全土、シルクロードを通ってヨーロッパやアラブの国々まで足跡を残している。明、清代には金融を支配して、国家に匹敵する富を築いた。
山西省を訪れると、晋商たちの豪邸が観光地として開放されている。その一つである「喬家大院」は荘厳だ。四合院と呼ばれる中庭を囲む伝統的なお屋敷だが、大きな中庭が六つもあり、部屋数は313もある。清朝の乾隆帝の時代に建造されたというから築300年近い文化財である。
中国映画界の巨匠・張芸謀(チャン・イーモウ、Zhang Yimou)監督の作品『紅夢(英題:Raise the Red Lantern)』の撮影場所になったことでも有名だ。1920年代の晋商の豪邸に、4人目の妾(めかけ)として輿入れした主人公を鞏俐(コン・リー、Gong Li)が演じたが、そのぜいたくで腐敗した暮らしぶりに驚かされた。
もっとも実際の晋商たちは堅実だったといわれる。映画のロケ地「喬家大院」の主だった喬家には厳しい家訓があった。それは「妾を作らない」「賭博をしない」「買春をしない」「アヘンを吸わない」「使用人を虐待しない」「泥酔しない」の六つの戒めである。
富豪の一夫多妻が常だった清代の中国にあって、この戒めは先進的であり、また厳しいものだったろう。200年以上にわたって一族経営で繁栄を維持するためには、厳しい家訓が必要だったのかもしれない。
しかし、栄華を極めた晋商たちもアヘン戦争をきっかけに衰退の道をたどっていく。塩や金融の独占を許可してくれていた清朝が欧米列強に権限を奪われていったからだ。特にシルクロードの陸上交易で富を築いた晋商たちにとって、列強の要求で海上貿易が始まり、そこから締め出された打撃は大きかったようだ。
晋商たちは忘れられたが、運城市はかつての繁栄を取り戻そうと、数年前から運城塩湖の観光地化に力を入れている。
晋商たちの豪邸を史跡として保護し、開放する一方、塩田を減らし、湖を自然の状態に戻す試みも続けている。湖に入ると、中東の死海のように人が浮かぶことができる珍しい湖だ。湿地の生態系が回復すれば、これまで以上に観光客を呼び込むことができそうだ。
何千年にもわたって人類に塩を供給し、晋商たちを生み出した運城塩湖。色とりどりに変化する湖を眺めながら晋商たちの暮らしぶりを想像するのも楽しそうだ。(c)東方新報/AFPBB News