【7月13日 東方新報】この夏は日本のみならず中国でも猛暑が続いている。6月22日には各地で過去最も暑い端午節(旧暦の5月5日)を迎えたが、7月第2週の週末に入っても吹き出す汗は止まらない。中央気象台によれば多くの地域で最高気温が35度以上。中国・河北省(Hebei)南部、河南省(Henan)北部、山東省(Shandong)西部などでは40度を超えた。翌週には一部地域で暑さが少しやわらぐというが、うんざりするような暑さの夏はまだまだ続く。

 中国電力企業連合会の関係者によれば、2023年における最大電力負荷は正常な気候下で13億7000万キロワット程度との予測で、前年より約8000万キロワット増加する見通しという。ただ、長期にわたり広範囲で異常気象などが発生した場合はこれに収まらない。前年より1億キロワット程度増える可能性もあるといい、一部地域で電力供給がひっ迫する事態も起こりかねない。中国政府も緊張感を持って電力の安定供給を目指し対策に乗り出している。

 この暑さの中で、「高温手当」が改めて注目されている。配車サービス大手の滴滴出行(Didi Chuxing)は7〜9月の3か月間、所属するドライバーが乗客の希望に応じて冷房を使用または不使用とした上で、送迎サービスを終えれば高温手当を支給するという。金額は都市や天気によって変化するが、最高で100元(約1943円)。中国では真夏に乗ったタクシーや配車サービスでドライバーが冷房をつけてくれないという「不運」に見舞われることがある。

 少しでもガソリンの消費量を抑えたいドライバー側の都合なのだが、乗客の側にも体質や体調の理由から冷房を嫌がる人もいる。滴滴としては、高温手当によってドライバーと乗客との間の無用なトラブルを減らし、一層のサービス向上を目指したい考え。乗客の立場からすればありがたい。 

「北京に来て何年にもなるけど、高温手当なんかもらったことないよ」

 そう話す男性は、デリバリーの配達員。毎日の労働時間は午前9時~午後10時くらいまでおよそ13時間。ショッピングモールで配達する弁当を受け取って外に出ると、まるでストーブの中に踏みこんだようで息苦しさえ感じるという。停めてあったバイクのシートは火傷しそうに熱い。熱中症になった同僚もいるというが、確かに炎天下でバイクを走らせ、アスファルトの照り返しを浴び続ける配達は過酷な労働だ。だが、男性は高温手当をもらえていない。

 実は中国で高温手当の支給を受けるのは、労働者の当然の権利。「防暑降温措置管理弁法」は、「雇用主は労働者を35度以上の高温の天気で屋外や野外作業に従事させて、職場の温度を33度以下に下げる有効な措置がとれない場合には、労働者に高温手当を支給し賃金の総額に含めなければならない」などと規定している。

 中国人民大学(Renmin University of China)労働法・社会保障法研究所の林嘉(Lin Jia)所長は、一部の企業は、賃金としての高温手当と福利としての暑さ対策費などを混同して、きちんと支給していない実態を指摘する。

 企業側のコスト削減の意図も透けて見える。同法は、高温で作業に携わる労働者の健康と安全の保護を目的としており、企業側に対して冷房設備や休憩場などを設置することなども求めているが、こうした義務も無視されがちであるという。林所長は「配車サービスのドライバーやデリバリーの配達員など、雇用関係が曖昧な新しいタイプの職種についても同法が保護すべき対象だ」と主張する。「これらの人びとと雇用者の間に労働関係が確立されていないため、法律の保護から除外されるというなら、高温での労働者の保護という本来の制度の意図に完全に反します」

 同法が施行されたのは2012年。気候変動の問題は今ほど深刻にはとらえられていなかったが、温暖化の影響が顕著になり、社会全体が高温時代に対応していく必要に迫られた今、林所長は「同法の規定さえ不十分で、大いに改善の余地がある」との認識を示している。(c)東方新報/AFPBB News