【6月1日 東方新報】かつて長安と呼ばれ、中国古代の諸王朝が都を置いた陝西省(Shaanxi)西安市(Xi’an)にシルクロードの国々からトップが集まった。中国と中央アジア5か国の首脳との「中国・中央アジアサミット」である。

 今年が初開催となるサミットの前夜祭(5月18日)は、唐の皇帝が庶民とともに楽しんだとされる「芙蓉園」を模した市内のテーマパークで開催された。パーク内には楼閣や湖、庭園、劇院など唐の街が造られており、夜のライトアップが美しい。

 習近平(Xi Jinping)国家主席や中央アジアの首脳たちを前にした舞台では、中国の民謡や伝統舞踊などのほか、カザフスタン人の男性歌手であるディマシュ・クダイベルゲン(Dimash Kudaibergen)さんも中国語とカザフ語で歌を披露した。

 首脳たちを自国に招待した側の中国が威信をかけて準備した前夜祭である。中国のネット上には「わざわざ外国から歌手を招かなくてもいいのに」という書き込みも散見されたが、「ディマシュさんの歌を聴いたことのないの?」などとファンから反論されていた。

 ディマシュさんはカザフスタンのアクトベ生まれの29歳。歌手の両親の元で育ち、ポップスからクラシックまで幅広いレパートリーを6オクターブ以上の声域で歌う実力派だ。

 2015年にベラルーシの国際音楽祭でグランプリを獲得して、旧ソ連圏の国々で人気が爆発。2017年ごろには中国のテレビにも呼ばれ、最近は中国の紅白歌合戦である旧暦大みそかの歌番組にも2度目の出演を果たした。競争の激しい中国の芸能界で、長く人気を維持できる外国人歌手は決して多くはない。

 前夜祭で披露した中国語の曲名は「万里夢同心」。唐代中期の詩人である張九齢(Zhang Jiuling)の古典詩「送韋城李少府(李少府を韋城に送る)」を下敷きにした歌だ。調べてみると、実は日本でも3年前に話題になったことがある。

 この詩は、地方に転勤する友人の送別会で名残を惜しむ叙情詩。最後の二句である「相知無遠近 万里尚為隣」という部分を、現代日本語にすれば、「親友である私たちに距離など無い。たとえ万里離れていても隣にいる」とでもなろうか。

 2020年春、新型コロナウイルスが日本でも広がり、感染予防のマスクが不足した時のこと。中国・湖南省(Hunan)から滋賀県に届けられた2万枚のマスクの箱にこの一節が貼り付けられていた。日本から送った支援物資のお返しだったという。このエピソードは当時、日本の主要メディアが報じているから覚えている人もいるのではないだろうか。

 さて、前夜祭でディマシュさんが歌った友好のメッセージはシルクロードの国々に届いただろうか。ぜひ、動画サイトなどでディマシュさんが歌う「万里夢同心」を探して聴いてもらいたい。中国語やカザフ語の意味は分からなくてもギスギスした日常を少しの間、忘れられるはずだ。(c)東方新報/AFPBB News