【3月23日 東方新報】空前のペットブームが続く中国。2021年時点で犬・猫のペットは1億1000万匹に上り、その数は今も増え続けている。溺愛タイプの飼い主はペットを「毛孩子(毛の生えたわが子)」と呼び、自らを「鏟(金へんに産のつくり)尿官(おしっこ始末係)」などと呼ぶ。ペット市場の規模は2020年の2953億元(約5兆6175億円)から2023年には5928億元(約11兆2769億円)に上る見込みで、わずか5年間で倍増する勢い。その中で「かわいいわが子」のためのペット保険も広まっている。

 ペット保険が誕生した当初はペットが第三者にケガを負わせた場合の損害賠償保険が中心だったが、今ではペットの病気やケガを治す医療保険が増えている。複数の大手損害保険会社が2022年にセールスした「ペット保険付き家財保険」の契約総額は前年比67%増の164億元(約3119億円)となり、この年のヒット保険商品となった。

 再保険会社大手のスイス・リー・グループによると、25%前後の成長が持続した場合、2025年には中国のペット保険料規模は約14億元(約266億円)に達する見通し。それでもペット保険の普及率は1.2%程度という。

 ペット医療保険の一例を挙げると、基本は月額14元(約266円)を払い、医療費の保障額は年間最大5000元(約9万5115円)。グレードを月額33元(約627円)に上げれば年間1万5000元(約28万5346円)となる。単純に医療費を支払うのでなく、保険会社が提携している病院で治療を受ければ60%を負担し、それ以外の病院は40%という保険が多い。

 しかし、保険を巡るトラブルも多い。犬と猫を飼う瑶瑶(YaoYao、仮名)さんは2021年からペット保険に加入。2022年に猫の胃腸炎のため動物病院で治療を受けた際は保険が下りた。しかし今年に入り犬のケガで同じ病院で治療を受けると、保険会社から「その病院は当社の指定病院ではなくなったため、治療費は支払えない」と拒絶された。このように知らない間に指定病院が変更されて、支払いを拒否されたり、支払比率を下げられたりする事例はかなり報告されている。

 北京連合大学(Beijing Union University)管理学院の楊沢雲(Yang Zeyun)教師は「保険会社との連携が悪かったり過剰な請求をしたりする病院もあるため、保険会社が指定病院を変更することはやむを得ない。ただ、加入者への事前通知を工夫する必要はある」と指摘する。

 瑶瑶さんは地元の消費者機関に不服を申し立て、1か月にわたる交渉の結果、800元(約1万5218円)の治療費のうち保険会社から400元(約7609円)を受け取ることができた。

 問題は他にもある。

 思思(Sisi、仮名)さんは愛犬の皮膚病を治すため、指定病院で治療を受けて628元(約1万1946円)を支払ったが、保険会社から受け取れた額は107元(約2035円)にとどまった。理由は「使われた薬が国内の承認を得ていない」。思思さんは「保険会社と病院で事前に決めておくべき話で、保険加入者が不利益を受けるのはおかしい」と不満を述べる。

 他にも、「年間1万2000元(約22万8277円)まで医療費を保障」とうたっている保険が、「一つの病気・ケガについては1000元(約1万9023円)まで」と条件を付けており、ペットが同じ病気・ケガの治療で複数回通院して費用がかさんでも、1000元までしか払わない内容のものがある。

 北京市のある動物病院の院長は「一般の病院のように治療や投薬に明確な基準がないため、動物病院によって治療方法や使用する薬が異なる。必要の無い検査や治療、投薬で法外な料金を取ることも珍しくないため、保険会社がいろいろ制約を付ける事情も分かる」と打ち明ける。最愛のペットを守りたい飼い主の思いに経済的に応えるためにも、ペット保険やペット医療の統一基準や透明性の確保が求められている。(c)東方新報/AFPBB News