【12月21日 東方新報】中国工業情報化部によると、中国全土の第5世代移動通信(5G)基地局は9月時点で222万か所に達した。前年末より79万5000か所増え、今年の目標だった200万か所を早くも超えた。5G基地局の数は世界全体の60%以上を占める。

 中国で5Gの商用開始から3年。基地局の建設に猛進するのは、5Gと「インダストリアルインターネット」を結びつけ、社会経済構造を変革することが狙いだ。

 インダストリアルインターネットとは、IoT(モノのインターネット)化を進めると同時にモノ・データ・人を結び付け、生産効率や品質管理の向上を目指すことだ。

 5Gは送信先に情報を伝達する時間が格段に早い。遅延時間は1ミリ秒レベルに設定され、4Gの10分の1以下に低減される。遅延時間を1~10ミリ秒程度に抑える必要がある産業用ロボットの操作が可能となり、5Gの接続可能デバイス数も4Gの10倍となる。

 例えば、これまで命の危険と隣り合わせだった山奥の資源採掘作業が「5G+インダストリアルインターネット」により、無人の採掘機による作業に置き換えることができる。スタッフはエアコンのきいた操作室でモニターを見て、コーヒーを飲みながら無人機を操作すればよい。

 工業情報化省の担当者は11月、湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)で開かれた「2022中国5G+インダストリアルインターネット大会」に合わせた会見で、「全国の5G+インダストリアルインターネットプロジェクトは4000件を超えている。電子設備製造や鉄鋼、電力などの業界で、設備の遠隔制御や品質管理、無人スマート巡回点検などの実践が進んでいる」と説明している。

 中国にとって5G+インダストリアルインターネットの普及は急務の課題だ。高学歴化が進む若者たちはホワイトカラー層の仕事を求めており、卒業後に就職浪人をしても希望の職種を探している。一方、工場や港湾、建設現場などの労働者は不足しており、「若者は就職難、労働現場は人手不足」という矛盾したような現象が起きている。また、中国では今年に入り既に人口減少が始まったといわれる。本格的な少子高齢化社会が到来し、働き手不足が今後さらに深刻となる。5G+インダストリアルインターネットはこうした難題を解消するために不可欠となっている。

 もちろん、5G+インダストリアルインターネットは現場の人手不足解消だけが目的ではない。メタバースに代表される拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を活用したバーチャルビジネスの推進、産業のデジタル化、生産エネルギー効率の管理・改善、物流工程のスマート化など、中国経済全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を目標としている。また、遠隔医療や遠隔教育の技術が向上すれば都市と農村の地域格差解消にもつながり、国土の均等ある発展をもたらす。

 ただ、国務院発展研究センターのデータによると、国内企業の50.7% が産業のデジタル化に投資しておらず、一定規模以下の企業では33.8%にとどまるという。政府が構造改革の旗を振っても、企業側は費用とリスクを伴う「肉体改造」に二の足を踏んでいる現状がうかがえる。5G基地局建設などのハード面だけなく、政府の財政面や政策的支援、産業界の意識変革が必要となっている。(c)東方新報/AFPBB News