【11月17日 東方新報】中国では「財布を持たない生活」がすっかり定着した。買い物も電車に乗る時も、スマートフォンで決済。飲食店ではテーブルのQRコードを読み取り、スマホ画面に登場するメニューで注文することも当たり前となっている。スマホに銀行口座をひも付けるか現金をチャージし、支付宝(アリペイ、Alipay)や微信支付(ウィーチャットペイ、WeChat Pay)のアプリを通じて支払う。アプリには毎月の利用リポートや支払い分析機能があり、使用頻度に応じて優待サービスもある。

「小銭を持ち歩いたり、お釣りを数えたりした時代がはるか昔に感じる」と話す市民は多く、そのぶん充電器の持ち歩きは必須。街角のあちこちに充電サービスもある。おもちゃ店の前で「おもちゃを買いたい」とねだる3~4歳ぐらいの子どもに、母親が「今日はお金を持っていない」と答えると、子どもに「うそつき!スマホにお金が入ってるじゃないか」と言われるといった笑い話もある。

 そして中国の都市部では、スマホ決済から次世代の「生体認証決済」に移りつつある。指紋や瞳の虹彩、顔、声紋、手の静脈といった生体情報で支払う。中国では携帯番号の実名登録が義務づけられており、生体情報と携帯番号を一緒に登録する方法が一般的だ。スマホ決済でQRコードを読み取るといった手間がなくなり、店側はコスト削減、消費者は買い物がスムーズに済むメリットがある。また、QRコードを使った詐欺被害を防ぐ狙いもある。中国では、店頭のQRコードの上にニセモノのQRコードを重ねて客から情報を盗んだり、オンラインショッピングで有名店舗そっくりのサイトを作ってQRコードから現金をだまし取ったりする事件がニュースとなっている。

 生体認証決済で海外でも話題となったのは、中国ケンタッキーフライドチキン(KFC)が2017年に杭州市(Hangzhou)の店舗で導入した顔認証決済「スマイル・トゥ・ペイ(Smile to Pay)」だ。アリペイを運営し、杭州市に本社のある阿里巴巴集団(アリババグループ、Alibaba Group)と連携し、「顔が財布」となるシステムを実現した。アリババのライバルでウィーチャットペイを運用する騰訊(テンセント、Tencent)は2019年、やはり本社のある深セン市(Shenzhen)で顔認証による地下鉄乗車サービスを開始した。スマホ決済の苦手な人が多い60歳以上の高齢者を対象に、顔認証システム専用の改札機を通じて乗車できる。認証はわずか0.3秒で完了し、識別率は99.99%を誇る。

 ただ、顔認証には「自分の顔をデータベースに登録するのは抵抗がある」という人も少なくない。コロナ禍でマスクをするのが日常となり、顔認証はむしろ面倒という声もある。また、他人の顔写真をスキャンして本人になりすまして買い物をする犯罪も登場。2020年には、不正入手した数千枚の顔写真がネット上で、わずか2元(約39円)で販売される事件が発覚し、国内で衝撃を与えた。

 深セン市(Shenzhen)の一部の店舗では今年に入り、ウィーチャットペイの「手の静脈認証システム」が導入された。開発メーカーの責任者は「指紋、虹彩、顔、声紋は、技術的に機械が正確に読み取れない場合がある。第三者が情報を盗んだり、なりすましたりすることも難しくない。それに比べ静脈認証は安定性と安全性に優れている」と説明する。

 キャッシュレスから「スマホレス」へと変化していく流れに、市民からは「決済システムが増えすぎて、ついていけない」「そのうち歯の決済システムが登場するんじゃないか」というぼやきの声も出ている。(c)東方新報/AFPBB News