【11月29日 東方新報】中国の家事手伝い派遣会社のサイトで最近、高学歴の女性スタッフの登録が増え、話題となっている。

「馮(Feng)女士、26 歳、上海対外経貿大学(Shanghai University of International Business and Economics)卒業、米ボストン・ノースイースタン大学(Northeastern University)で修士号、英語とプログラミングに精通」

「傅(Fu)女士、24 歳、大学英語試験4級(日本の英検2級クラス)、日本語検定1級、子どもの英語、絵画指導に長年従事。証明書あり」

 エプロン姿で笑みを浮かべる写真付きで、こうした経歴の女性スタッフが数多く紹介されている。

 中国では料理や洗濯、掃除、子守などをする家事手伝いは珍しくない。「阿姨(おばさん)」と呼ばれ、もっぱら農村から出稼ぎに来た中高生の女性が多い。近年は子どもの家庭教師役を担い、家庭内のさまざまなIT機器を使いこなすなど、幅広い知識と能力のある家事手伝いのニーズが高まってきた。各地の大学では新たに家政学部が新設されるのも新しい流れとなっている。一般のホワイトカラーより多い月収2万元(約39万円)を稼ぐ家事手伝いの女性も登場している。

 ただ、この1年で急激に高学歴の家事手伝いが増えた。背景にあるのは、昨年夏に中国政府が打ち出した、学校の宿題と塾通いの負担をそれぞれ減らす「双減」政策だ。宿題は学年に応じて上限を設け、学習塾に至っては「民間の塾は非営利団体に転換すること」と命じるなど、実質は「塾禁止令」と言われる。実際、多くの学習塾が全国で廃業に追い込まれた。

 双減政策は、「大学受験は3歳から始まる」と言われるほど過熱した受験競争に歯止めをかけると同時に、1人あたりの教育費を減らすことで少子化を防ぐ狙いもあると言われている。そしてその当時から「今後は家庭教師が増えるのではないか」と言われていた。

 おおっぴらに家庭教師を派遣するビジネスを始めると「国策」に反する形となるため、家事手伝いの形を取った家庭教師が増えているようだ。教育部はそれも予想して昨年9月に「家事手伝いの名目で家庭教師をする行為は取り締まる」と通知している。

 しかし、中国メディアが家事手伝い派遣会社に電話で問い合わせると、「小中学生に英語を教える場合、1時間半で300~500元(約5800~9700円)」「子どもの教育指導をする家事手伝いは、1か月で1万5000~2万5000元(約29万~48万円)」と説明を受けたという。

 とはいえ、こうした高学歴の女性たちが本物かという疑問の声も出ている。北京市のある家事手伝い派遣会社の幹部は匿名で、中国メディアの取材に「学士号や学位を持つ20~30代の女性はいないことはないが、大多数は40〜50歳」と明かす。

 昨年5月、ある派遣会社が「清華大学(Tsinghua University)卒業、29歳の女性」という登録スタッフを紹介。清華大学は中国最高峰の大学で、「掃除や洗濯はせず、子どもの家庭教師やしつけ、家全般のマネジメントをする。月収3万5000元(約68万円)以上」の条件で希望者を募集していた。中国で大きな話題となったが、市場監督部門が調査した結果、内容はすべて架空と判明。派遣会社は20万元(約388万円)の罰金処分を受けた。

 中国では古くから「上有政策、下有対策(上に政策あれば、下に対策あり)」という有名な言葉がある。政府がいかに政策を打ち出しても、民衆は抜け穴を探そうとする意味だ。中国の親が子どもに「有名大学に行き、一流企業に行ってほしい」という思いはすさまじいものがあり、その思いを利用するビジネスも多い。子どもの教育をめぐる「政策」と「対策」は今後も注目を集めそうだ。(c)東方新報/AFPBB News