【9月13日 東方新報】中国で医療保険や出産手当などの業務を管轄する国家医療保障局の8月17日の記者会見で行われた質疑が、中国国内で関心を集めた。記者が「子どもを産んだ女性が出産手当を申請する際、結婚証明書の提出を求める自治体がある。未婚で子どもを産んだ女性にとって障壁となっている」と質問したのに対し、劉娟(Liu Juan)待遇保障局副局長は「出産手当の支給は社会保険法に定められており、手当を受け取るのに不要な書類を提出する必要はない」と明言した。

 中国では、出産は正式に結婚した夫婦によるものという意識が強い。欧州では今や婚外子の方が多い国もあるが、中国ではそもそも統計すら存在しない(日本の婚外子の割合は約2%)。中国の出産手当は企業が従業員のために積み立てており、女性従業員もしくは男性従業員の妻が出産した場合、自治体に申請すれば受給できる仕組みだ。だが、多くの自治体が手続きの際に結婚証明書の提出を求め、未婚で出産した女性の申請を拒否しているのが実態といわれている。

 4年前から生活が困難な未婚の母の支援活動をしている南京市(Nanjing)の劉昭妤(Liu Zhaoyu)さんは「これまでに農村出身の女性数百人と接触してきました。彼女らの多くは教育水準が高くなく、性教育を受けておらず、都会に出稼ぎに来てさまざまな事情でやむなく未婚の母となりました」と説明する。一方で、高学歴で経済的余裕があり、「結婚はしたくないが子どもは欲しい」という女性も増えているという。

 上海市の未婚の母、張萌(Zhang Meng)さんは2017年、市を相手取り出産手当の支給を求めて中国初の訴訟を起こした。一審、二審とも敗訴し、上海市検察院への告訴も2020年に却下された。張さんは「誰かが裁判を行うべきだと思っていました。私はある程度の法律知識があり、両親が子どもの面倒を見てくれているので、そのエネルギーがありました」と話している。

 こうした当事者の取り組みが、少しずつ社会を動かしつつある。上海市民政局は2020年12月末、「出産手当について現在の手続きを変更する」と発表し、未婚の母にも出産手当を支給する方針を打ち出した。張萌さんは翌2021年初めに出産手当を受け取り、多くの同じ待遇の女性も後に続いた。

 こうした方針を明確にしているのは広東省(Guangdong)や上海市など一部地域にとどまっているが、国家医療保障局が今回、「出産手当の申請に結婚証明書は必要ない」と明言したことで、未婚の母への差別的対応が各地で解消されることが期待される。

 中国では長年続いた一人っ子政策を廃止し、現在は3人までの出産を認めているが、出生人口は減少を続けており、少子高齢化が深刻となっている。未婚の母への対応の変化は、政府の出産奨励策とも関係がありそうだ。ただ、婚外子を巡っては親の出産休暇の取得や将来の子どもの受験資格などでも差別があると言われており、まだ多くの課題が残っている。(c)東方新報/AFPBB News