【11月25日 東方新報】すでに火ぶたを切ったサッカーW杯カタール大会(2022 World Cup)。日本ではサムライブルーの悲願の8強進出なるか否かが最も注目されるところだが、中国では代表が予選敗退し、W杯出場を逃したにもかかわらず、今回の大会の注目度は高い。

 その理由の一つは、8万人以上の観客が収容でき、決勝戦会場になる予定のルサイル・アイコニック・スタジアム(Lusail Iconic Stadium)。今回、その建設に中国企業も参画し、W杯「出場」を達成したのだ。

 ルサイル・スタジアムは、外壁が金色のボウルのような形状をしており、屋根を支柱ではくケーブルで引っ張って支えている。

 この構造設計に参画したという北京市建築設計研究院(Beijing Institute of Architectural Design)の朱忠義(Zhu Zhongyi)氏は、スタジアムの建設チームが、一部に中国の構造設計や分析を採用した点を強調した上で、「中国の特色ある技術と製品を今後広めていく効果がある」と胸を張る。

 施工には国有企業、中国鉄建総公司(China Railway Construction Corporation Limited, CRCC)の傘下にある中国鉄建国際集団も参加した。ワールドカップのスタジアムとしては、中国企業が設計や施工を請け負った初めてのケースだという。

 W杯熱が続く中、カタールに行く機会を得た范艶涛(Fan Yantao)さんは、中国でちょっとした有名人になった。

 范さんがカタールに行ったのは観戦のためではなく、中国では定番の朝食の一つである中華風揚げパンを作る際に使う膨張剤を運ぶため。その行程を撮影し、SNSにアップしたところ、サッカーファンらの羨望(せんぼう)の的となり、動画の再生回数は上位にランキング入りするほどバズった。

 范さんにしてみれば、カタール行きは会社に命じられた海外出張。れっきとした業務である。

 范さんは河南省(Henan)のバス会社「鄭州宇通集団(Zhengzhou Yutong Bus)」の社員。同社は、観客の送り迎えなどに使用されるバス合わせて1500台をカタールに提供。職員も100人以上派遣している。

 范さんの業務は、すでに異国での暮らしが長期間におよんでいる、前乗りした同僚たちのバックアップだ。

「一番長い人たちは、まもなく1年になります。みんな家が懐かしいし、故郷の味が忘れられないのです」

 ザーサイや中国人の宴会には欠かせない白酒も詰め込んできたという。

 初めて海外に出たという範さん、今回の出張で至る所に中国の影響力を目にして驚いたという。首都ドーハでは、奇瑞汽車(Chery Automobile)、吉利汽車(Geely Automobile)など中国ブランドの車がたくさん走っているし、工事現場には中国製の重機が並ぶ。先に触れたようにルサイル・スタジアムの施工には中国企業が参加した。

 サッカーに関しては「にわかファン」だと自称する范さんだが、熱気あふれるカタールで、初めてワールドカップを身近に感じる経験ができたことは、とてもラッキーだったと考えている。

「こんなにたくさんの中国企業がワールドカップに関わっていることは、中国人として誇りに思います」

 是非はともあれ、W杯が4年に1度、出場国もそうでない国も巻き込むビッグイベントであることは確か。国や立場が変われば、当然、見え方や楽しみ方も変わる。ちなみにアラブ風の頭巾をモチーフにしたかのような大会マスコット「ライーブ(La'eeb)」は、日本人の目にはオバQの親戚か、ゲゲゲの鬼太郎に出てくる「一反もめん」に見えるかもしれないが、中国では「ワンタンの皮」と呼ばれて親しまれている。(c)東方新報/AFPBB News