【10月28日 東方新報】中東で初となるサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会の開催まで1か月を切った。4年に1度のイベントに熱狂するのはサッカーファンだけではない。一足先に熱戦を繰り広げているのは、意外にもカタールからは遠く離れた中国・浙江省(Zhejiang)、義烏市(Yiwu)のビジネスマンたちだ。

「ワールドカップのユニホームの注文は普段の4倍です」

 うれしい悲鳴をあげるのは、義烏でサッカーのトレーニングウエアなどを生産し、アフリカや東南アジアに輸出する会社の男性。

 原材料などの生産コストが上昇したため、商品の価格は例年の1割ほど高いというが、それでも男性いわく、「想像を超えた注文量」。工場をフル回転させても間に合わず、他の生産業者に委託するなどして1日5000着を生産しているという。

 義烏は日用品や玩具の卸売市場や生産工場がある都市として知られる。日本の100円ショップも仕入れの多くを頼っているとされる。

 その義烏の業者らに海外からワールドカップ絡みの商品の注文が殺到しているという。

「母国ではサッカーはとても盛ん。今日、買い付けるつもりの商品は、少なくともコンテナ三つ分くらいはなるはず」

 そう話すのは、卸売市場にサッカーボールの買い付けに訪れていたドイツ人男性。中国側の販売業者によれば、仕入れ先のボールの生産業者はカタール大会を見据え、20〜30種類の新商品を売り出したという。価格はやはり例年より1割ほど高いというが「海外からのワールドカップ関連の注文は全く衰えていない」そうだ。

 ある工場では、サポーターが応援で使うスティックバルーンの製造に追われていた。4万5000本をパナマ向けに発送する予定だが、生産が追いつかない。生産ラインの人数を2人増やし6人にした上、ラインの稼働時間を延長するなどして対応しているという。

 義烏のスポーツ用品協会の試算によれば、ユニホームや応援グッズなど、ワールドカップ関連商品の世界市場の約7割を、同地で生産された商品が占めるという。2010年のW杯南アフリカ大会(2010 World Cup)で話題となった、現地のサポーターたちが応援で吹いたラッパ「ブブゼラ」もほとんどが義烏製だったという。

 義烏は、いわば「ワールドカップ特需」に沸いたわけだが、この“特需”の恩恵を得られるか否かは、実は時間との勝負にかかっている。商品の輸送を主に海運に頼るためだ。例えばカタールのある中東ならば、義烏から商品の到着に約1か月かかるという。すなわち、11月20日の大会開催に間に合わせるには、遅くとも10月初旬には生産から荷出しまで全て終わらせていなくてはならない。

 そのため、義烏では輸送のための「ワールドカップ専用線」を設け、寧波市(Ningbo)や上海市の港を経由して海外に発送する輸送経路の効率化を図って対応したという。

 義烏のビジネスマンたち、すでに開催まで1か月を切り、ほっと胸をなで下ろしているかと思いきや、そうでもないらしい。海外からの注文への対応を終えた後は、国内向けの注文対応に追われているという。

 カタールより一足先にキックオフした義烏の戦いは、まだ熱い。(c)東方新報/AFPBB News