【10月6日 東方新報】中国で生活水準が向上すると共に高齢化も進む中、歯科治療でインプラントが欠かせないものになっている。しかし高額インプラントが問題となっており、「治療費がベンツ1台分の30万元(約602万円)」というニュースまで報じられている。

 そもそもインプラントとは何か。

 分かりやすく言えば、虫歯や事故で失った歯を補うために、顎の骨にネジのような人工の基礎を埋め込み、その上に義歯を装着する方法。損なった歯を補う方法としては、周囲の歯に金具を引っ掛けて取り外し可能な部分入れ歯や、欠損した歯の前後をまとめて義歯で覆ってしまうブリッジがある。これらに比べると、外科手術を伴うインプラントは手間と期間を要するのだが、見た目はより自然で、部分入れ歯のように装着時の違和感は無く、ブリッジのように健康な歯を傷つける必要はないため希望する患者は多い。だが、彼らに二の足を踏ませる最大の理由の一つが、高すぎる費用だ。

 中国でインプラント治療に使う義歯などの製品は、80%は欧米や韓国からの輸入品。高級なものでは施術費用などを除き1本で1万元(約20万円)以上する。

 関係者によれば、公立病院で扱うインプラントは高級品なら1本4000元(約8万円)から6000元(約12万円)、安いものでは2000元(約4万円)から3000元(約6万円)だった。この価格の中には、流通過程などでの水増し費用が多分に含まれるという。

 患者が支払う費用はこれだけでは終わらない。医師らによる診断、検査、手術などの費用が加わる。こうした医療サービスの費用は、平均で6000元、一部の地方では9000元(約18万円)を超えていた。

 私立病院となれば、広告費や仲介手数料などの費用が上乗せされ、患者の負担はさらに増すという。

 患者の側からすれば、いざ、インプラント治療が必要と腹をくくったとしても、安ければ安いほど良いと考えるのが人情だ。そんな心情を狙って詐欺まがいの広告がはびこっているのも、インプラントの高すぎる費用がもたらした問題の一つだ。

 広東省(Guangdong)広州市(Guangzhou)に住む王(Wang)さんは、エレベーターの中に貼ってあった広告に目を奪われた。

「『サービス価格』で、輸入インプラントがたったの980元(約1万9802円)」

 彼女は早速、その病院に向かった。そこで受けた説明は、サービス価格が適用されるのは50歳以上の患者で、最初の1本のみ、麻酔費用は含まれない等々…。結局、彼女はサービス価格の対象外と判断され、実際の費用は7、8倍に跳ね上がったという。

 さらに深刻な問題もある。

 安い費用を売りにする医院の多くは、きちんとした技術や資格があるかさえ疑わしい。ある患者は、1年足らずで義歯が割れてしまったが、補償を受けられず泣き寝入りした。別の患者は、施術後1年ほどして、患部が腫れと出血を繰り返すようになった。そこで、かかった病院に行ってみたが、すでにビルはもぬけの殻だったという。

 こうしたトラブルが相次ぐ現状を中国政府も座視できず、監督強化に乗り出した。

 国家医療保障局は「インプラント治療をめぐる医療サービス費用および消耗品の価格についての特別措置に関する通知」を発表。この中で、義歯などの製品部分の価格を抑えるための集中調達制度を始動させ、該当地域の4割以上の医療機関が参加させることや、省や市レベルの大病院では、1本のインプラント治療に関わる医療サービス部分の費用を基本的には4500元(約9万円)に抑える方針を示した。

 こうした政府の対応を受け、すでに各地で新たな価格体系が発表されるなどしているという。費用抑制の効果を期待できそうだ。

 日本ではかつて「芸能人は歯が命」という歯磨き剤メーカーのCMが大ヒットした。容貌のみならず、きちんと咀嚼(そしゃく)し健康を保つためには、芸能人に限らず誰にとっても歯は命。これまで高すぎたインプラントの費用が抑えられるのは庶民には確かに朗報だが、治療が手頃になったからといっても油断せず、出来る限り自分の歯を大切にして、いつまでも美味しい食材を噛み締めたいものだ。(c)東方新報/AFPBB News