【8月24日 東方新報】影絵人形(皮影)を使った中国の伝統的な芝居「皮影戯(Piyingxi)」。その起源は2000年前にさかのぼり、世界最古と言われている。伝統は21世紀の今も中国各地で受け継がれている。

 影絵人形は牛やヤギ、ロバ、馬の皮を半透明になめし彫刻や彩色を施したもので、それ自体が芸術品としても鑑賞されている。影絵芝居は日本の影絵人形劇と操作方法が異なり、人形を操作する棒を3本ほどつけてスクリーンとなる白い布に直接押し当て、後ろから光を当てる。「映画の先駆け」ともいわれるゆえんだ。関節部が動かせるため表現は豊かで、スピード感あふれる演技ができる。そばで演奏家が鼓や銅鑼(どら)などの伝統楽器をにぎやかに奏で、「西遊記」や「白蛇伝」などの物語が演じられる。2011年には国連教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)の世界無形文化遺産に登録された。

「影絵は単に伝統として受け継がれてきたわけではない。常に革新の道を歩んできたのです」。中国西部・陝西省(Shaanxi)の影絵継承者・薛宏権(Xue Hongquan)さんはそう語る。「陝西皮影」は繊細な美しさと芸術性の高さから、中国影絵の逸品と称される。薛さんは現代のテクノロジーを駆使し、実際の人間の骨格構造を反映した人形を制作。米国の人気歌手、故マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)さんの有名な「ポッピング」と「ムーンウオーク」を生き生きと再現している。

 影絵は2000年前の漢の時代に始まり、1200年前の唐の時代に紙人形の芝居が上演され、南宋の時代に皮の人形が使われるようになった。そうした革新の歴史を継承する薛さんの作品は日本でも紹介され、自ら率いる影絵劇団はオーストリア、シンガポール、カザフスタンなど世界各地で公演している。54歳の薛さんは「伝統のパフォーマンスに新しい要素を加え、芸術をより活力あるものにしたい」と意気盛んだ。

 河北省(Hebei)に住む31歳の王永躍(Wang Yongyue)さんは、清朝末期から地元に伝わる「王氏皮影戯」を受け継ぐ。幼少期から祖父の教えを受け、北京で修行を積んだ。王さんも影絵人形に革新と改良を加え、日々研さんに努めている。「影絵を継承している人は少なくなりましたが、伝統芸術を後世に伝えていきたい」

 中国のZ世代(1995年以降生まれ)の若者の間では、伝統文化を取り入れたファッション「国潮」がブームとなっている。王さんはいま、最新ファッションと影絵人形を結合させる方法を考えている。「日常生活を通じて影絵人形を知ってもらい、好きになってほしい」と王さん。各地の職人たちはそれぞれ、伝統に新しい魂を吹き込もうとしている。(c)東方新報/AFPBB News