【8月22日 AFPBB News】ロシアによるウクライナ侵攻のニュースを連日、耳にする中、音楽を通じて現地の視覚障害者の支援を始めた全盲の日本人ロックピアニストがいる。

 アーティストの香介(Kosuke)さん(37)だ。8歳の時、先天性の緑内障で視力を失った。ウクライナ難民の情報に接するたびに思い浮かんだのは、視覚に障害のある避難者の手元に白杖が届いているかどうかだった。

「自分に視覚障害があるから、何が必要かと考えた時、『杖(つえ)一本ないと動けない』ということだった。杖は目の代わりみたいなもの」と、香介さんは東京都内のライブハウスで語った。

 6月中旬、ウクライナの視覚障害者に特化した支援をするため、ピアニスト仲間5人とチャリティーアルバムをリリースした。

 題名は「Feathers of hope(希望の羽根)」。未来に希望を持てる言葉を選んだ。ピアノ曲を集めたアルバムには、ボーカルも担当する香介さんのオリジナル曲「Bluebird(ブルーバード)」が収録されている。

「もともとパラアスリートを応援するために作ったが、戦争が始まった今では戦いに『勝利して』という気持ちよりも、支配者に『負けないで』という願いを込めてピアノを弾いた」と香介さん。

 アルバムの収益は、日本盲人福祉委員会を通じて世界盲人連合(World Blind Union)傘下のウクライナ盲人協会に送られる。

「ミュージシャンとして何ができるかって考えた時に、やはり音楽しかない。何かしたいと考えたが、自分は目が見えないし、そんなに有名でもない。できることは限られる。けど、何もできないということは無い」

 15歳の頃、レイ・チャールズ(Ray Charles)の「ホワッド・アイ・セイ(What’d I say)」を偶然ラジオで聴き、独学でピアノを始めた。2006年から本格的にライブ活動をスタートさせ、昨年は障害者の国際舞台芸術コンクール「ゴールドコンサート」でグランプリを受賞した。

「僕は音楽をやっているから音楽でチャリティーをしたということ。もし音楽をやっていなかったとしても、何かしらしていたと思う」と、サングラス姿の香介さんは話す。

 自身、非常時における白杖の大切さを実感した経験がある。東日本大震災が起きた2011年3月11日。修理した杖を受け取り帰宅した10分後、大きな揺れを感じた。

「1時間ずれていたら逃げられなかった。白杖は見えない人にとって、避難の第一歩」。震災後、何かできないかと考え、復興のチャリティーライブを行った。

■連帯と祈りの詩

 香介さんは今回のアルバム制作に際し、背中を押された詩があったと打ち明ける。日本障害者協議会の代表で、自身も視覚障害のある藤井克徳(Katsunori Fujii)氏(73)が3月に発表した、ウクライナの障害者に向けた詩だ。

「連帯と祈り ウクライナの障害のある同胞(はらから)へ」は、ウクライナ語、ロシア語、英語に翻訳され、欧州障害フォーラム(European Disability Forum)を通じてウクライナ障害者国民会議(NAPD)に届けられた。現在、7か国語で公開されているこの詩は、冒頭から「戦火における障害者の境遇」をストレートに表現する。

戦争は、障害者を邪魔ものにする
戦争は、障害者を置き去りにする

 ウクライナで障害者が取り残されている報道を耳にし、「全くの素人だけれども、詩に託してみようと思った」と振り返る藤井氏。詩の最後では手段を選ばず生き続けてほしいと訴えた。

とにかく生き延びてほしい
たとえ、食べ物を盗んでも
たとえ、敵兵に救いを乞うてでも

遠い遠い、でも魂はすぐ傍(そば)の日本より

 藤井氏は「一度社会に異変が生じると、最も脆弱(ぜいじゃく)な層、障害のある人の場合はより厳しいグループに入るが、そこに問題や矛盾が集中・集積しやすい。これは歴史の常であると思うし、東西を超えて共通だと思う」と語る。

 藤井氏が関わる障害者団体「きょうされん」は3月、ウクライナ危機の発生を受けて緊急募金を呼び掛けた。これまでに約800万円が寄せられた。募金は主にウクライナの障害者支援に充てられる。