【7月15日 AFP】台湾・台北郊外の駐車場で、迷彩戦闘服を着てアサルトライフルを構えた葉さん(47)は車の陰に身を潜め、周囲をうかがいながら前進の合図を待っている。コードネームは「教授」だ。

 ただし、葉さんの本業はマーケティングで、手にした銃はモデルガンだ。中国による侵攻という現実的な脅威に備えるため、週末を利用して市街戦講習会に参加している。「参加を決めた最大の理由は、ロシアとウクライナの戦争だ」とAFPに語った。

 中国は台湾を自国の一部と見なし、統一を目指して圧力をかけ続けている。2月にロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領がウクライナ侵攻を命じたことで、多くの台湾人が抱いてきた最も恐ろしい不安が具現化した。

 一方で、ウクライナ軍の奮戦ぶりは葉さんを勇気づけた。適切な戦術を用いれば、台湾もはるかに強大な隣国の侵攻をしのげるかもしれないとの希望が持てた。

 市街戦講習会の主催者によると、受講生は2月以降、4倍近くに増えた。銃器や応急処置の講習会を受講する人も増えている。

■ 危機感

 ウクライナ侵攻以前から台湾では中国に対する不安が高まっていた。講習会主催企業のマックス・チャン(Max Chiang)最高経営責任者(CEO)は、中国軍機が台湾の防空識別圏(ADIZ)への進入を繰り返すようになった2020年から、台湾人の間では「危機感が高まっている」と話す。

 AFPのデータによると、同年の中国軍機の進入回数は約380回。翌21年には2倍以上に増え、今年はさらに増える見通しだ。

 米国防総省によると、台湾軍の戦力は、地上兵力8万8000人、戦車800台、戦闘機400機。対する中国軍は、地上兵力100万人超、戦車6300台、戦闘機1600機と圧倒的に上回っている。

 だが、ウクライナの戦いぶりは都市を制圧することの難しさや攻撃側の被害の大きさを浮き彫りにし、こうした戦力差を埋めるための手掛かりをもたらした。台湾の人口2300万人のほとんどは都市部に住んでいる。

「攻撃は最大の防御だ」と葉さんは強調する。「はっきり言えば、敵を全滅させ、進撃を食い止めることだ」

■「侵略されたら武器を取る」

 駐車場脇の倉庫では、生まれて初めて拳銃を手にしたルース・ラムさん(34)が撃ち方を教わっている。

 戦争になったとしても、銃の扱い方を知っていれば自分や家族を守れるかもしれないと考えた。友人と一緒にこれからも射撃の練習を続けるつもりだ。「雨が降る前に傘を用意しないと。いつ何が起こるかは分からないのだから」

 5月に実施された調査では、回答者の61.4%が「侵略されたら武器を取る」と答えた。

 シンクタンク「台湾世代教育基金会(NextGen Foundation)」の陳冠廷(Chen Kuan-ting)執行長は、「侵略者と戦うウクライナ国民の決意が、台湾人の祖国防衛への覚悟を高めている」と指摘する。

 元空挺(くうてい)隊員で「戦闘技術を磨くため」市街戦講習会に参加した林さん(38)も、「国民が国土を守る強い意志と決意を持って初めて国際社会を動かし、支援してもらうことができる」と言う。

 葉さんは、磨いたスキルを生かす時が必ず来ると考えている。香港を例に挙げ、「次は台湾だ」と言い切った。(c)AFP/Sean CHANG