【7月22日 AFP】英領北アイルランド南部ロックアーン(Lough Erne)湖に浮かぶイニッシュラス(Inish Rath)島は、1980年代からヒンズー教の一派ハレー・クリシュナ(Hare Krishna)の拠点となっている。島内の寺院は現在、ロシアに5月に占領されたウクライナ南東部マリウポリ(Mariupol)から逃れてきた信者の避難場所にもなっている。

 ウクライナの「クリシュナ意識国際協会(ISKCON、イスコン)」の主要メンバー、ラスキン・ハビブーリンさん(48)は「焼け野原になったためマリウポリから避難した」とAFPに語った。

 船しか交通手段がないイニッシュラス島の寺院はもともと、19世紀に造られた狩猟小屋だった。今はこの寺院が、ハビブーリンさんと妻タチアナさん、息子ニキータさん(14)の家だ。

 シカとクジャクが歩き回る緑に囲まれた平和な島が、マリウポリで経験した一家の恐怖を癒やしてくれると、ハビブーリンさんは言う。

「大変だった。(マリウポリから退避した後でさえ)飛行機やヘリコプターを見るとすぐ、戦争のことを思い出した」と話す。

「しかし、信者や周りの人々の心遣いと寺院が精神的な安らぎを与えてくれる」

■ネットワークを頼りに

 ウクライナから逃れてきた他の信者は、寺院の周辺に移っている。

 ナラヤン・ダスさん(22)と妻バレリアさんは、マリウポリでは爆撃から逃れるため信者50人と地下壕(ごう)に暮らしていた。

 ロシア軍に包囲されたアゾフ海(Sea of Azov)に面した港湾都市マリウポリは、3か月に及ぶ激しい戦闘の末、ロシア軍に5月に制圧された。住民数十万人が避難し、ウクライナ政府によると少なくとも2万2000人が死亡した。

 ダスさんは3月中旬にマリウポリを離れた。ハレー・クリシュナの国際ネットワークを使い、スロバキアとチェコを経由してアイルランドに来た。

■「帰る場所はない」

 マリウポリの90%が破壊されたため、「この地に定住しようかと思っている」とダスさんは述べた。現在は国境から車で30分のところにある、アイルランド北部バリナモア(Ballinamore)に住んでいる。

「帰る場所が全くない」と訴える。

 ダスさんは、日曜日ごとに寺院を訪れる人に提供する食事の支度を手伝い、礼拝に参加する。

 ハレー・クリシュナ運動の名で知られるイスコンは、1960年代に設立されたヒンズー教宗派の一つ。世界で100万人の信者がいるとされ、旧ソ連崩壊後は東欧で急速に広がった。

 イスコンは1982年、島や人里離れた場所にこもって内省したというアイルランドのカトリック修道士の伝統に着想を得たこともあり、イニッシュラス島を購入した。

 アイルランドの首都ダブリン出身のトゥラシ・プリヤルさん(67)は、ハレー・クリシュナ運動の信奉者やアイルランドのヒンズー教徒にとって、イニッシュラスの寺院が「中心」になっていると述べた。

 マリウポリから避難してきたハビブーリンさんは、将来どうなるか分からないが、信仰心は揺らがないと話す。

「私たちはどのような時でも信者と共にある。アイルランドでも、ウクライナでも、世界中どこでも信仰を続ける」 (c)AFP/Callum PATON