【5月15日 AFP】ウクライナ・パラリンピック委員会の会長が、ロシアの侵攻によって、自国の障害者スポーツプログラムが崩壊直前の状態にあることを明かし、このままでは悲惨な結末になると懸念を示している。

 ウクライナには270万人の障害者が暮らしており、夏冬両方のパラリンピックで好成績を収めてきた。しかし侵攻開始から2か月半がたち、多くの人が犠牲になる中で、政府はすべてのリソースを戦争に振り向けざるを得ず、パラリンピックプログラムへの資金拠出はできない状況だ。パラリンピック委員会は緊急の資金援助を必要としており、諸外国からの寄付を募っている。

 ブラジルで行われている聴覚障害者の五輪、第24回夏季デフリンピック(24th Summer Deaflympics)に出場中のウクライナ選手団に同行している同国パラリンピック委員会のバレリー・スシケビッチ(Valeriy Sushkevych)会長は、AFPによる電話インタビューに現地から応じ、「このままではウクライナの障害者スポーツが死ぬのではないかと懸念している」と危機感を示した。

 デフリンピックのウクライナ代表は、メダル数で1位を独走し、2位の米国に2倍以上の大差をつけている。3月の北京冬季パラリンピックでも、金11個を含む29個のメダルを獲得。メダル順位で過去最高の2位に入り、国が大きな苦難に見舞われる中で国民の誇りになった。

 しかし、西部にある冬季スポーツのトレーニングセンターは、現在は臨時の避難施設として使われており、300人以上が身を寄せている。「ノーとは言えない。われわれはスポーツにすぎない」とスシケビッチ会長。多くの家族連れの選手、また激しい空爆を受けた東部ハルキウ(Kharkiv)で家を失ったコーチも、そこに避難しているという。

 他の選手は家族と共に地下に隠れ、外へは自由に出られない。もちろん練習再開など不可能だ。スシケビッチ会長は「世界最高峰のパラリンピック選手たちが、競技を続けられるかも分からない」と嘆く。

 それでも、ブラジルと中国での選手たちの奮闘は、恐ろしい戦争に臨む市民の士気を高めている。「非常にたくましい精神だ。人々はSNSで『われわれには君たちが必要だ』と投稿してくれた」とスシケビッチ会長。「パラリンピックムーブメントが一度死んでしまえば、修復するのは非常に難しいだろう」。会長は、戦争で負傷して障害が残った人のためにも、ウクライナの障害者スポーツが存続することを願っている。(c)AFP/Lisa MARTIN