【3月7日 AFP】エチオピア北部アファール(Afar)州でアイシャ・ヌール(Aicha Nur)さん一家が住む小屋に砲弾が落ちたのは、昼食に息子のタヒール君(9)にパンとミルクを与えようとしている時だった。タヒール君の細い体は、瞬く間に炎に包まれた。

 ヌールさんはタヒール君ともう一人の息子をとっさに屋外に連れ出し、砲撃をかわしながら徒歩で避難した。村を攻撃したのは、反政府勢力「ティグレ人民解放戦線(TPLF)」とみられている。

 他の6人の子どもたちは行方不明のままだ。アファール州はいつの間にか、エチオピア紛争で最も激しい前線となっていた。そのために、わが子を永遠に失ってしまったのではないかとヌールさんは心配している。

 エチオピア最北部のティグレ(Tigray)州で紛争が勃発したのは2020年11月。それから約1年4か月がたち、他国の特使は和平交渉を提案し、アビー・アハメド(Abiy Ahmed)首相は紛争については公然と過去形で語っている。

 だがTPLFが戦闘を拡大した昨年7月以降、アファール州でも戦闘が起きるようになった。当局者や住民によれば、TPLFは町や村を激しく破壊し、人々は避難を余儀なくされ、過酷な状況に置かれている。

 AFPが確認した自治体の資料によると、1月の避難民は29万4000人。当局者によると、今年に入ってからは最大35万人に上っている。

 州内唯一の大きな病院では、病床数をはるかに上回るペースで負傷した市民が次々に運び込まれ、麻酔薬も不足している。

 ヌールさんは、やけどをしたタヒール君を病院のベッドに寝かせ、水膨れになった顔からハエを払いのけた。「私たちはずっと死にかけているのに、誰も私たちの声に耳を傾けてくれません」と静かに訴えた。

 映像は2月16日撮影。(c)AFP/Robbie COREY-BOULET