■「森がグル」

「ウォルフガングは『森が私たちのグルだ』と言っていた」とセーシャンさんは話す。

「熱帯雨林の庭師」と呼ばれるグルクラの女性たちは、南部ケララ(Kerala)州出身だ。植物学者と協力し、3世代にわたりグルクラを創り上げてきた。

 女性たちはコブラや昆虫から身を守るため長靴を履き、色鮮やかなチュニックを着て、スカーフで髪の毛をまとめ、森や保護区の温室や苗床で長い時間を過ごす。弱っている植物の植え替えをし、種を植え、牛の尿からできた悪臭を放つ天然の殺虫剤を作る。

「ここで西ガーツ山脈に生息する植物の30~40%を保護している」とセーシャンさんは言う。

 西ガーツ山脈は2012年、ユネスコの世界自然遺産に登録された。しかし、IUCNは2020年の世界自然遺産を評価する「世界遺産アウトルック(World Heritage Outlook)」で、人の活動範囲の拡大と生育地の消失に警鐘を鳴らした。IUCNは「西ガーツ山脈には5000万人が居住しており、他国よりも保護地域に対する圧力は極めて大きい」と指摘している。

 グルクラで28年間働くセーシャンさんは、環境の悪化を目の当たりにしてきた。「最初に来た時、プラスチックは見当たらなかった。初めて川でプラスチック製の袋を見た時、ウォルフガングが『文明社会がやって来た』と言ったのを覚えている」と語った。

 西ガーツ山脈の小型植物は、気温の上昇や降雨量の変化、生育地の消失に脆弱(ぜいじゃく)だと、セーシャンさんは指摘する。「気候変動が進めば進むほど、こうした植物は生き残るため変化せざるを得ない」

 西ガーツ山脈の年間降雨量は通常500センチ以下だが、勢力の強いモンスーンが増えている。庭師の一人、ラリー・ジョセフ(Laly Joseph)さんは植物が異常気象に適応しようとしていると話す。「しおれると受粉できなくて、種子もできない。こうやって特定の種が失われていく」と語った。「木が倒れる、森が死ぬのはつらい」 (c)AFP/Laurence THOMANN