【10月28日 東方新報】中国の家庭で「懶人調料」と呼ばれる調味料が広まっている。「懶人」は直訳すると「怠け者」「ものぐさ」の意味。ここでは「手抜き調味料」という表現がニュアンスに近く、さまざまな調味料を組み合わせた「合わせ調味料」のことを指す。日本では「マーボー豆腐の素」「寄せ鍋のだしスープ」といった商品で合わせ調味料はすでに定着しているが、中国ではライフスタイルの変化やコロナ禍の影響で急速に浸透している。

 紅焼排骨(骨付きスペアリブ)、麻辣ザリガニ、火鍋、水煮魚(油入りの汁で煮込んだ魚)、酸菜魚(漬物が入った魚のスープ)…。本来ならこれらの料理は酢やしょうゆ、花椒、トウバンジャン、唐辛子、八角など多彩な味付けで煮汁を作ったり調理したりするのだが、最初からそれぞれの料理別に配合された合わせ調味料の商品が次々と新発売されている。中国の合わせ調味料の市場規模は、2016年の854億元(約1兆5224億円)から2020年には1440億元(約2兆5670億円)に急成長した。

 つい最近まで、「中国では合わせ調味料のニーズは低い」と言われていた。朝8時出社の職場も多く、朝ご飯は親子で自宅近くの飲食店(屋台や露店も含め早朝営業の食堂が多い)で済ましたり、途中で軽食を買って出社後に食べたりする人が少なくない。昼食は職場近くの飲食店に行くかフードデリバリーを注文。定時に帰られる職場が多く、夕食は夫婦のうち早く帰った方が準備する。社会主義国家で夫婦共働きが当たり前のお国柄、料理ができる男性は多い。日本の家庭のように一食ごとにたくさんのおかずを作るのでなく、大皿料理がメインになることが多い。そのため夕食はある程度、余裕を持って料理をすることができる。

 しかし中国が急激な経済成長を遂げるとともに、ライフスタイルも変化した。市民の給与が増えて生活が豊かになる一方、職場では残業が当たり前のようになり、帰宅時間は遅れて仕事による疲れ、ストレスがたまるようになった。不動産価格の高騰で自宅と職場の通勤時間も長くなる一方。社会のスピード化に合わせて食器洗い機や乾燥機を購入する家庭が増え、合わせ調味料のニーズも高まってきた。

 また、2020年から新型コロナウイルスの拡大によりホームステイを余儀なくされると、フードデリバリーの繰り返しに飽きた人々が自炊をするように。特に一人っ子世代であまり料理をした経験の無い若者が合わせ調味料を使って簡単な料理を始めだした。SNS上では「『手抜き調味料』の食事でも十分、外食と変わらない」「フードデリバリーなら40元(約713円)かかる食事が20元(約356円)で済む」という書き込みが増えた。最近は簡単クッキングを紹介する若い「網紅(ネットスター)」も登場している。

 市場調査会社の艾媒諮詢(iiMedia Research)によると、2020年で合わせ調味料の普及率は米国が73%、日本が66%、韓国が59%に対し、中国はまだ26%。今後さらに成長する「伸び代」を持っている。(c)東方新報/AFPBB News