【6月19日 東方新報】「おはようございます。ご気分はいかがですか?」

 毎朝8時、中国・天津市(Tianjing)河西区に住む約5000人の一人暮らしの高齢者の家に、電話がかかってくる。人間の音声を人工的に作り出す音声合成(TTS)技術を使った安否確認システムだ。2回の電話で応答がない場合、地域の担当者やボランティアが自宅へ向かい、安全を確認する。電子商取引大手「京東(JD.com)」グループの人工知能(AI)事業企業「京東数科」がシステムを開発し、行政と連携して実施している。

 中国ではいま、高齢者向けサービスの需要が高まっている。

 国家統計局が5月に発表した第7回国勢調査のデータによると、中国の人口は0~14歳が17.95%、15~59歳が63.35%、60歳以上が18.7%となっている。このうち65歳以上は13.5%で、2010年と比較して5.44%増加している。

 中国では伝統的に「老後の親の面倒は子どもがみる」という意識が強いが、最近は一人っ子同士の夫婦がそれぞれの両親の世話をすることが難しかったり、都市と地方に分かれて暮らしたりする家庭が多い。高齢者が一人暮らしか夫婦だけで暮らす「空き巣家庭」と呼ばれる高齢者世帯は全体の半数に達する。

 車いすや寝たきりなど、身体機能に障害がある高齢者は4000万人を超えるという統計もある。3人の高齢者に対し1人の介護士が必要とする国際基準に照らし合わせると、1300万人以上の介護士が必要だが、現在、資格を持つ介護士の人数はわずか30万人。マンパワーが圧倒的に不足している。中国政府や各地の行政は近年、介護士の育成に力を入れているが、中国の労働力人口がピークを越えた現在、加速度的に増員することは難しい。

 そこで現在は、AIや5G、モノのインターネット(IoT)などを駆使したハイテク技術の開発が進んでいる。

 最新の歩行支援ロボットは、神経性疾患や脊髄損傷などの高齢者のため、その人の可動能力のデータを蓄積して最適な支援を更新する機能を備えている。一人暮らしの高齢者宅の温度や湿度などのデータを別居している子どもが把握し、火事やお湯の出しっぱなしといったトラブルをリアルタイムで感知できるサービスもある。高齢者が多い浙江省(Zhejiang)寧波市(Ningbo)勤州区の李家村では、スマート機能を搭載したネックレスやブレスレットを村民が装着し、異常が起きた時はすぐに担当部署が把握できる取り組みを進めている。

 長年続いた一人っ子政策の影響で、世界でも類を見ないスピードで超高齢化社会に突入する中国。ハイテク技術がどれほど問題を解消できるか、同じく超高齢化社会を迎えている日本などの先進国も注目している。(c)東方新報/AFPBB News