【6月16日 東方新報】中国のインターネット上で、「大学の最高峰・清華大学(Tsinghua University)の卒業生が家政婦をしている」という話題が広まり、関連の閲覧件数は4億件に達した。中国で家政婦や子どものナニー(教育係)、ハウスマネジャーの需要が増え、報酬も高くなっている現状を象徴している。

 家事サービス業人材派遣会社「佑傑(Youjie)家政」は5月25日、SNS型ECアプリ「小紅書(Red)」で、自社の登録スタッフとして清華大学卒業生の李静(Li Jing)さんという女性を紹介した。彼女は1991年生まれの29歳で、2016年から勤務。「中国一の高級マンション」といわれる上海の「湯臣一品」で4人家族の家事を手伝い、上海の高級別荘地「九間堂」で家財の管理を行ったという。「湯臣一品」は4000万元(約6億8580万円)以上の資産を持つ富裕層だけに販売し、有名スターも居住しているという。「九間堂」も1棟の価格が数億円というセレブの別荘地だ。

 彼女は掃除や赤ちゃんの世話といった従来の家政婦の仕事はせず、子どもの家庭教師やしつけ役、家全般の管理を業務とし、「月収3万5000元(約60万円)以上」の条件で仕事を募集していた。

 ネットで彼女の情報がアップされると、「学歴と希望の月収で二度びっくりした」「清華大を出て家事手伝いとは人材の浪費ではないか」と多くの反響が起きたほか、「写真は偽物だ」という指摘も。6月1日に浙江省(Zhejiang)の女子大学生が「私の写真が加工されている」と中国メディアの取材に答えると、佑傑家政はその日のうちに小紅書から彼女の情報を削除し、市場監督部門が同社に調査に入る騒ぎとなっている。同社のスタッフは中国メディアの取材に「名前は仮名だが、学歴は本当だ」と説明している。

 清華大卒の真偽はともかく、有名大学の卒業生が家事手伝いをすることは珍しくなくなっている。昨年は、西安外語大学(Xi’an International Studies University)の修士号を持つ32歳の劉双(Liu Shuang)さんがニュースとなった。彼女は英語とフランス語が堪能で有名なハイテク企業に勤務し、アフリカにも駐在。結婚・出産を機に退職した後、複数の家庭で子どもの教育係を担っている。月収は2万元(約34万円)を超え、企業に勤務していた当時の年収30万元(約514万3500円)に近い稼ぎとなっている。

 中国では近年、大学卒業生の数が過去最高を更新しており、今夏の卒業予定者(短大など含む)は前年比35万人増の909万人に上る。ただ、ホワイトカラーの求人は卒業生の伸び率ほど増えておらず、「卒業イコール失業」という学生も多い。一方で現場の労働者は不足し、給料を大幅に上げても人が集まらず、市場のミスマッチが長年の課題となっている。高学歴の女性が家事業界に入る流れは、ミスマッチを埋める流れといえる。

 こうした「高級事手伝い」だけでなく、通常の家政婦も需要が高まっている。北京五輪が開かれた2008年ごろの月給は1000~2000元(約1万7145~3万4290円)程度で、北京市や上海市に駐在する日本人家庭で「家政婦を雇っていない家はない」というほどだった。それが今や10倍の1~2万元(約17万1450円~34万2900円)に。駐在日本人家庭で「家政婦を雇っている家はない」状況となったが、年々増える中国人の富裕層の間で人材の奪い合いとなっている。

 中国の家政サービス業の市場規模は2018年で5762億元(約9兆8789億円)に達し、近い将来に1兆元(約17兆1450億円)に成長する見込み。中国の大学では次々と家政学部が誕生しており、中国の急激な経済成長の象徴の一つとなっている。(c)東方新報/AFPBB News