■イヌイットの遺産を取り戻す

 これらの犯罪は多くの場合、アルコールや薬物の摂取に関連しているが、3年前に始まったキャンペーンが功を奏し、減少している。

 それでも、多くは小さく辺ぴな地域社会の最貧困層の家庭で、今でも頻発している、とグリーンランド大学のペーター・バーリナー(Peter Berliner)教授(社会科学)は述べる。「グリーンランド内の格差は、大きくなる一方で、貧富の差は米国並みだ。他の北欧の国々のレベルをはるかに超えている」

 また、北欧閣僚理事会(Nordic Council of Ministers)に属する福祉問題機関によると、グリーンランドの自殺率は世界最悪の水準で、約1000人に1人だ。

 グリーンランドの政治学者ナウヤ・ビアンコ(Nauja Bianco)氏は、グリーンランドの近代化で多くの島民が行き場を失ったと言う。「小さい町や入植地は閉鎖され、人々は故郷から切り離され、新しい産業(例えば漁業)に送り込まれた。こうして、ますます狩猟採集民らしさを失っている」

 そして今、気候変動が若い世代に自分たちのルーツを見直させている。

 バーリナー教授は、気候変動の諸問題への取り組みの結果、「先住民文化の哲学、生活価値観に非常に人気が出ている」と話す。

 ビアンコ氏は、若い世代がデンマークの植民地支配の影響について、「より積極的、よりオープンに」討論しようとしていると指摘する。「自分がどのように見られているか、自分自身をどう見るかについて大きな変革の可能性がある。私たちのイヌイットの遺産を示し、取り戻すことが重要だ」

 だが、ボーラーさんは懐疑的だ。「デンマークが抑圧しているという人たちの叫びはうんざりだ。(中略)彼らはデンマーク人が与えてくれる恩恵を見ようとしない」と言う。「デンマーク人はコロナワクチンにお金を出し、無料で私たちにくれるじゃないか」 (c)AFP/Christian SOLBECK with Camille BAS-WOHLERT in Copenhagen