【9月28日 AFP】香港市民のホアンさん(16)がその夜受けたのは、すぐに出発せよとの電話だった。だが、高速のモーターボートで台湾に逃亡する試みは、失敗に終わった。

 現在、中国本土で拘束されている香港の活動家12人のうち、ホアンさんは最年少だ。12人は、民主化を求める昨年の大規模抗議デモ関連の起訴を逃れようとしたが、ボートは中国沿岸警備隊に拿捕(だほ)された。それ以来、12人は中国共産党が支配する本土の不透明な司法制度の中に消え、中国政府の独裁主義が香港に浸透しつつあるとの懸念が高まっている。

 ホアンさんに対する容疑は、火炎瓶を投げたとされることによる放火未遂だ。ホアンさんの年齢を考慮し、AFPはフルネームを公表しない。

 ホアンさんは家族とうまくいっておらず、香港での裁判を待つ間、政治的シンパのネットワークに迎え入れられた。

 3か月間、ホアンさんを自宅に住まわせ、香港での最後の夜まで一緒にいたダイアナさん(仮名)は、「最初に会ったときは、とても無口だった」とホアンさんの印象を振り返る。

 8月23日未明にホアンさんは出て行き、ダイアナさんは一日中心配したという。何の連絡もなかったのだ。

■「夫の匂いが消えてしまいそうで、枕を洗っていない」

 香港では、他の11家族も同様の苦しみを経験していた。

 同じボートに乗った技術者のウォン・ワイイン(Wong Wai-yin)さん(29)は、逃亡計画については家族にも秘密にしていた。

 ウォンさんは香港で爆弾製造の重罪に問われており、姿を消すまでは、保釈中の出頭要請にその都度応じていた。ウォンさんが姿を消した後、妻と母親は最悪の事態を恐れて必死にウォンさんの所持品を調べた。そうして見つかったのは、万一の事態が起きた場合のウォンさんからの謝罪のメッセージだった。

 匿名を希望するウォンさんの妻は、「夫がいなくなってから、枕を洗っていません」とAFPに語った。「いつか夫の匂いが消えてしまうのが怖いんです」