【8月15日 東方新報】「パンダの保護活動を進めたら、他の大型野生動物がいなくなった」——国際的オンラインジャーナル「ネイチャー・エコロジー・アンド・エボリューション(Nature Ecology and Evolution)」にそんな研究論文が掲載され、議論を呼んでいる。中国のパンダ保護区などを調査すると、ヒョウ、ユキヒョウ、オオカミ、ヤマイヌの4種の大型肉食動物が激減していたという。それはどういうことなのか。

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 論文は、北京大学(Peking University)生命科学学院の李晟(Li Sheng)研究員たちが執筆。李氏たちの研究チームは、中国で66 か所のパンダ保護区を含む73か所の自然保護区のデータを分析。過去の歴史的な調査と最近10年間分の自動撮影カメラ調査の結果を比較すると、ヒョウは自然保護区の81%でいなくなっているほか、ユキヒョウは38%、オオカミは77%、ヤマイヌは95%の自然保護区から姿を消していた。

 分析では、パンダの行動範囲が5~13平方キロに対し、他の大型動物は100平方キロ以上を必要としており、パンダに合わせて設置された自然保護区では大型動物の「生活」が保障されないことが要因という。パンダも大型食肉動物だが、竹を食べるなど「素食」スタイルに進化したことで広い行動範囲を必要としなくなった。他の大型動物はエサとなる動物を求めて保護区以外もさまよわなければならず、密猟や病気で命を落としたり、家畜を襲って人間に殺されたりする。自然保護区付近の住民は「1990年代半ばから、姿を見なくなった」と話している。

 パンダの保護活動は国際的に「生態系保護の成功モデル」とされてきた。中国では1960年代からパンダ保護区を設け、密猟や皮の売買などの取り締まりも徹底。パンダの生息数は安定し、国際自然保護連合(IUCN)の「絶滅の恐れのある野生生物のリスト(レッドリスト)」で、「絶滅危惧種」から危険度の低い「危急種」に引き下げられた。また、パンダ保護区では多くの中小動物や植物の生息も確認されている。食物連鎖の頂点を保護すると他の動植物が大きく増減せず、生態系全体が安定する「アンブレラ(傘)効果」といわれるものだ。

 しかし、パンダ以外の大型肉食動物の減少に関する視点は抜け落ちていた。広範囲に活動する大型動物が減少すれば、例えば草食動物が増加して各地の植物を食い荒らすことになる。食物連鎖や生態系に狂いが生じ、最終的にはパンダの環境にも影響する。

 明るい材料もある。中国・四川省(Sichuan)では現在、巨大なパンダ国家公園の整備を進めている。面積は2万7000平方キロに達し、米イエローストーン国立公園(Yellowstone National Park)の3倍。この地域は現在、野生のパンダが多く生息しているが、森林伐採や道路建設などで個体群が分断されてしまっており、パンダの安全な「出会い」の機会を増やし、自然交配で広く分布させるため巨大公園を設ける。結果的にこれが他の大型肉食動物にも「恩恵」をもたらすのではと期待されている。

 ただ、巨大公園といっても、それは四川省の一部に限られる。中国全土で大型動物と生態系を守るため、論文を発表した李氏は「今後はパンダの保護に重点を置くだけではなく、生態系全体を考えた自然保護政策が必要だ」と訴えている。(c)東方新報/AFPBB News