【6月29日 東方新報】中国で新型コロナウイルスの第2波が警戒される中、北京市政府は一部地域で無人車両による食料品の配達実験を始めた。最近完成したばかりの中国版衛星利用測位システム「北斗3号(Beidou 3)」と連携し、安全運転を実現。今後はさらに実験エリアを広げていく。

 無人運転の配送実験は、北京市北東部にある順義区(Shunyi)の「花梨坎自由市場」周辺エリアで実施している。住民がインターネットで弁当や生鮮食品を注文すると、かまぼこのような形をして車体に「無接触 安心送」と書かれた無人車両が、指定されたルートに沿って配送を開始。車体に搭載したカメラと車体上部のレーザーレーダーが「五感」の役割を果たし、北斗システムからの信号で常に位置とルートを是正する。

 自動運転技術専門家の董峻峰(Dong Junfeng)博士は「北斗衛星の信号を受け、無人車両はセンチメートル単位の精度で動き、車の先端と後部にあるアンテナで常に方向を確定している」と説明する。花梨坎自由市場では2台の無人車両が毎日十数往復して食料品を送っている。

 順義区経信局の劉建新(Liu Jianxin)副局長は「試験運用をしながらデータ収集を進めている。少しずつ活動エリアを広げ、年内には順義区全体に広げていきたい」と話している。

「北斗」は2000年に最初の衛星を打ち上げ、2011年から民間に開放。2012年には中国と太平洋諸島に位置情報を提供し、2018年末から全世界規模で運用を拡大した。そして今年6月23日に最後となる55基目の測位衛星の打ち上げに成功し、システムを完成させた。

 北斗システムを利用した自動運転は既に各地で実験や実用化の段階に入っている。自動車やトラックの自動運転技術開発だけでなく、農業機械でも自動運転を導入。2019年に山東省(Shandong)の農村で行われた試験では、畑の溝掘りや種まき、消毒液散布をすべて無人の機械が行った。人力では1日かかる作業を1時間で終え、誤差2.5センチ以内の作業により同じ面積でも人が作業するより多くの畝(うね)を作ることができた。

 新型コロナウイルスとの闘いでも北斗システムは活躍した。感染症が最も深刻だった湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)に短期間で専用病棟を建設する際、北斗システムの高精度測位により工事現場の測量が一度に完了した。また、湖北省の各地で北斗システムを利用したドローンが医療物資の搬送を担った。

 中国政府は自動運転ビジネスに経済成長をけん引する役割を期待している。また、北斗システムはすでに世界120か国がサービスを利用しているが、米国のGPSに対抗してさらに各国に普及させるため、北斗と連携した自動運転の実績は目に見える格好のPR材料となる。新型コロナウイルス対策で自動運転技術が加速することで、「災い転じて福となす」ことが期待される。(c)東方新報/AFPBB News