【4月1日 東方新報】新型コロナウイルスをめぐる、日本と中国をまたいだ2つの出来事が話題になっている。一つは、愛知県豊川市の市長が友好関係にある江蘇省(Jiangsu)無錫市(Wuxi)新呉区(Xinwu)に「前に送ったマスクが余っていたら返してほしい」と頼んだこと。もう一つは、遼寧省(Liaoning)瀋陽市(Shenyang)の飲食店が「日本の感染が末永く続くことを願う」と横断幕を張ったことだ。これらの出来事に対する中国のネットユーザーの反応は、時代を感じさせるものだった。

 中国で新型コロナウイルスがまん延していた当時の2月4日、豊川市は4500枚のマスクや防護服などを新呉区に送った。ところが3月に入り、今度は日本で感染が拡大し、豊川市でも感染者が確認され、市の備蓄用マスクは5月には底をつく見通しとなった。そこで竹本幸夫(Yukio Takemoto)市長は「もし在庫があれば、返してもらえないか」と新呉区に依頼した。3月23日に連絡を受けた新呉区は翌24日には、倍返しならぬ「10倍返し」で5万枚のマスクを調達。新呉区は中国版ツイッター・微博(ウェイボー、Weibo)で、「私たちは豊川市と終始助け合い、手を携えてウイルスと闘います」と表明し、豊川市に順次、発送している。

 中国のニュースサイト「騰訊(テンセント、Tencent)」などがこの話題を報じたが、その際に日本のネット上の声も同時に紹介。「だったら最初から送るなよ、みっともない」「さすがにこれは恥ずかしい」という批判や、「友好都市なんだから困った時はお互いさま」「中国、男前すぎる」という反応を伝えた。

 すると中国のネット上では「そんなに日本はマスクで困っているのか」という驚きの声もあったが、「何ら恥ずかしいことではない。次は私たちが助ける番だ」「命がかかっている問題。メンツを捨てて頼んできた市長に敬意を表する」という書き込みが相次いだ。「投桃報李(モモを贈られれば、感謝としてスモモを送り返す)」「滴水之恩 湧泉相報(一滴の水の恩を、湧き出る泉で返す)」と中国の古語を添えた投稿も多く、「日本という国家は好きになれないが、市民同士の友情には関係ない」という意見もあり、おおむね好意的な反応だった。

 一方、瀋陽市では3月22日、ある飲食店の店長がアーチ形のバルーンで「熱烈祝賀美国疫情 祝小日本疫帆風順長長久久(米国のウイルス流行を熱烈に祝い、小日本の感染が末永く続くことを願う)」と書いた横断幕を掲げた。「疫帆風順(Yifanfengshun)」は「一帆風順(Yifanfengshun、順風満帆の意味)」との語呂合わせになっている。中国では日本と政治的なもめ事が起きると、自分の「愛国心」を示そうとする商店主が「釣魚島(尖閣諸島)は中国の領土」というような横断幕を掲げることがしばしばある。こうした横断幕は、街の印刷業者などに頼むと低料金ですぐ仕上げてくれる。今回も「日本を批判すればウケる」というノリでこんな横断幕を掲げたようだが、国内の反応は違った。

 中国紙やネットでは「ウイルスは国家や民族に関係ない人類共通の敵」「世界に中国の恥をさらした」と痛烈な批判が相次いだ。ある中国人ジャーナリストは「日本の民間団体が送ってくれた物資の箱に書いてあった『山川異域 風月同天(住む場所は違えど、同じ空の下でつながっている)』という8文字が、中国人の心をどれだけ温めたことか」と指摘した。

 この店には22日夜には警察が駆けつけて横断幕の撤去を命じ、店長は事情聴取を受けた。会社側は23日夜、店長の解雇を発表し、「深くおわびし、従業員教育を徹底する」と表明した。

 中国での日本のイメージは今も「軍国主義」「侵略国家」というイメージは根強く残るが、中国からの訪日客が年々増えて2019年には959万人に達し、「素顔の日本」を知る人々が増えてきている。さらに、今回の新型コロナウイルスをめぐっては、「中国が一番つらい時に日本は官民挙げて支援の手を差し伸べてくれた」という印象が強い。政治に翻弄(ほんろう)されやすい日中関係だが、人類共通の敵・ウイルスとの闘いを通じて、互いの市民が手を携えようとする心情も広がっている。(c)東方新報/AFPBB News