【3月30日 東方新報】中国・湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)の桜が、今年も満開となった。しかし、今年は、この満開の桜を見に来る人がいない。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、武漢市民はまだ自由な外出ができておらず、観光客も受け入れられていない。市民たちはライブビデオアプリなどで見ることができ、いかに人間社会が災難に見舞われていても、春は確かにやってきていることに気付いている。 

 桜といえば、多くの人が日本を連想するだろうが、中国にも桜が代名詞の場所がある。それが武漢だ。武漢市武昌区(Wuchang)の東湖(East Lake)湖畔にある桜園は、東京ドーム4個分の広さに約1万株の桜の木が植えられ、世界三大桜の名所の一つといわれている。珞珈山(Luojia Mountain)にある武漢大学(Wuhan University)のキャンパスには、約200本の桜の並木が約300メートル続く。 

 こうした桜は最初、旧日本軍の武漢占領時代に植えられた。武漢大学は占領当時、軍病院として使われ、入院中の日本軍兵士を慰めるために、日本から持ち込んだ桜が植えられたのが始まりだ。その後、当時の桜は枯れてしまったが、国交正常化の1972年に時の首相の田中角栄(Kakuei Tanaka)氏が改めて友好の証しとして桜を贈った。その後、市政府と市民の手によって桜は大事に守られ、増えていった。武漢市民のみならず中国内外の観光客を楽しませる市のシンボルだ。 

 東湖桜園では、3月中旬から末まで、ソメイヨシノを含め数十種の桜が少しずつ時期をずらして満開を迎える。園内は日本式の橋や中国式の寺院、あずまやや、流水、石庭といった景観設計がなされ、園内をくまなく巡れば最低でも2時間はかかる。

 武漢大学は16日、桜を見ることができない市民のために、ビデオ共有アプリ「快手(kuaishou)」と共同で「珞珈の春、桜満開」シリーズのライブ放送を行った。第1部の放送では累計視聴者83万人を超え、ネットユーザーから71万以上の「いいね」を押された。第2部の「珞珈山のふもと、桜を待つ人の海」では、1時間未満のライブ放送で累計596万7000人が視聴し、「いいね」は364万5000を超えて、同時期のライブ放送番組中、一番人気だったという。 

 人民日報(People’s Daily)、新華社(Xinhua)通信、国営中国中央テレビ(CCTV)など多くの中央メディアも「快手」のプラットフォームを使って、武漢大学キャンパスの桜をライブ放送した。新型ウイルスによって今年のお花見にはビデオアプリを通じて楽しむしかなかったが、「来年は珞珈山で会いましょう」という約束の種を多くの市民が心の中にまいていた。(c)東方新報/AFPBB News