【2月27日 AFP】北極圏でホッキョクグマの共食いが増加していると、ロシア・モスクワにあるセベルツォフ研究所(Severtsov Institute)の専門家が26日、警鐘を鳴らした。海氷面積の減少と人の活動の影響で生息地が消失したためだとしている。

 インタファクス(Interfax)通信によると、ホッキョクグマの研究者イリヤ・モルドビンツェフ(Ilya Mordvintsev)氏はサンクトペテルブルク(St. Petersburg)で開いた記者会見で、「ホッキョクグマが共食いをすることはかねて知られている。だが、以前はなかなか発見できなかった実例が、今はかなり頻繁に記録されることに懸念を抱いている」と述べた。

「ホッキョクグマの共食い行動は増加傾向にあると、われわれは明言する」

 モルドビンツェフ氏は、「幾つかの理由で食料が不足しており、体の大きな雄が子連れの雌を襲っている」と説明。こうした事例の報告が増えた背景の一つとして、北極圏における人の活動が拡大し、共食いの目撃者が増加した可能性を指摘した。セベルツォフ研究所は現在、科学者のみならず「油田労働者や国防関係者からも情報を得ている」という。

 同氏によれば、ホッキョクグマの主要な狩り場だったオビ湾(Gulf of Ob)~バレンツ海(Barents Sea)の一帯はこの冬、液化天然ガス(LNG)の輸送タンカーが行き交う混雑海域と化した。

「オビ湾は従来ホッキョクグマの狩り場だったが、今や通年で砕け氷が見られる」とモルドビンツェフ氏は指摘。これに関連する動きとして、オビ湾と接するヤマル半島(Yamal Peninsula)でのガス田開発と「アークティックLNG(Arctic LNG)」プロジェクトの新規プラント建設事業を挙げた。

 ロシアの観測記録では、温暖化により氷の融解が進むにつれ、従来の狩り場を離れて移動するホッキョクグマが増えている。

 サンクトペテルブルクにある北極南極研究所(AARI)のウラジーミル・ソコロフ(Vladimir Sokolov)氏によると、北極海の夏季末の海氷面積はこの25年間で40%縮小した。いずれホッキョクグマは海氷上で狩りができなくなり、沿岸部や高緯度の群島などでしか生息できなくなるだろうと同氏は予測している。

 これに先立ち、ロシア極北の住民からは、居住域に数十頭のホッキョクグマが侵入してごみをあさっているとして警戒する声が上がっていた。(c)AFP