【2月3日 AFP】英領北アイルランドに工房を構えるバイオリン製作者のマーティン・マクリーン(Martin McClean)さんは、数々の工具や材料となる銘木がそろうこの工房で、木材の削り出しや、弦を指ではじいて楽器の音に耳を傾けるといった作業を日々続けている──。

 マクリーンさんの工房は、ティローン(Tyrone)州クックスタウン(Cookstown)郊外にある。この工房を設置するにあたり、費用5万ポンド(約700万円)の約半分を欧州連合(EU)の農村経済の多角化を目的とした基金から支援してもらった。

 しかし英国は、1月31日にEUから離脱した。それはマクリーンさんにとって、支援の喪失を意味するものだ。

 離脱を前にマクリーンさんは、「私は、自らを欧州人だと思っているので(離脱については)悲しく思っている。バイオリン作りは欧州の重要な伝統の一つだ」と語った。

 工房での取材にはブルーのエプロン姿で応じ、「コンサートホールを満席にし、観客を感動させ、音楽家たちを興奮させる音」を奏でる特注のバイオリンやビオラ、チェロなどを手掛けた伝説の弦楽器製作者たちについて熱く語った。

 マクリーンさんは年間約10丁のバイオリンを完成させる。1丁の値段は1万ポンド(約140万円)にのぼる。世界中に顧客を持ち、その多くがプロのクラシック演奏者だ。

 だが、英領北アイルランドにある他の多くの企業と同様、マクリーンさんもブレグジット(Brexit、英国のEU離脱)後にどうなるのかが分からず、不安を感じると話す。

■二つの制度

 英国は1月31日午後11時(日本時間2月1日午前8時)、50年近く加盟したEUを離脱した。

 英国とEUは包括的な経済・貿易協定合意へ向けた協議に入るが、既存の取り決めについては今年末までは維持される。厳しい国境管理(ハードボーダー)を設けないというこれまで状態を維持するために、EUの規則を一部残すという特別な措置が講じられることになるのだ。

 EU以外の国から北アイルランドに持ち込まれる物品については、英国の規則の対象となる一方で、EU加盟国であるアイルランドを経由してEUへと向かう場合は、EUの規則の対象となるという。

 このような制度が実際にどのように機能し、そしてビジネスに影響を及ぼすのかは依然として分かっていない。

 欧州委員会のミシェル・バルニエ(Michel Barnier)首席交渉官は1月27日、北アイルランドの中心都市ベルファストとアイルランドの首都ダブリンを訪れ、摩擦のない貿易は「不可能」であり、国境での検問は「不可欠」だと述べていた。