【11月23日 AFP】ナチス・ドイツ(Nazi)に迫害され、世界中に散らばっていた家族が、日本の伝統工芸「根付」が取り持つ縁で、数十年ぶりにオーストリアの首都ウィーンに集合した。

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 ウィーンのユダヤ博物館(Jewish Museum)でこのほど、19世紀から20世紀初頭に名をはせた、ユダヤ系大富豪エフルッシ(Ephrussi)家の激動の物語をたどる展示が始まった。この展示の目玉となっているのが、迫害された一族が収集していた根付だ。この中には、エフルッシ家の一員で陶芸家のエドマンド・ドゥバール(Edmund de Waal)氏(55)による、一族の歴史を書いた著作「琥珀(こはく)の目の兎(The Hare With Amber Eyes)」の題名にもなったウサギの根付も含まれている。

 展示会に合わせ、欧州のみならず米国やメキシコなどからエフルッシ一族約40人がウィーンに駆け付けた。

 現ウクライナ・オデッサ(Odessa)出身の穀物商人だったエフルッシ家は、20世紀初めにはフランス・パリやウィーンの金融業界で重要な位置を占めるようになる。今でもウィーンのリング通り(Ringstrasse)にはその名前が付いた豪邸「エフルッシ宮殿(Palais Ephrussi)」がある。5階建ての新古典主義建築で、舞踏室、中庭もあり、その豪華さから当時の繁栄ぶりがうかがわれる。

 だが、1938年にナチスがオーストリアを併合するとエフルッシ家の運命は一変する。財産は没収され、屋敷も占拠され、所有する銀行も事業登録を取り消された。ドゥバール氏の曽祖父であるビクトル・エフルッシ(Viktor Ephrussi)氏はスーツケース2個だけで国を離れ、1945年に無国籍のまま死亡した。

■根付コレクション

「琥珀の目の兎」にも登場するエフルッシ家の264点に及ぶ根付コレクションは、ビクトル氏のいとこで、当時パリに住んでいたシャルル・エフルッシ(Charles Ephrussi)氏が収集していたものだ。

 シャルル氏は当時のパリ美術界の中心的人物で、印象派の巨匠ピエール・オーギュスト・ルノワール(Pierre-Auguste Renoir)の親友で、ルノワールを含む印象派画家らのパトロンでもあり、マルセル・プルースト(Marcel Proust)の作品に登場する人物のモデルにもなった。

 シャルル氏は、いとこのビクトル氏の結婚祝いに収集していた根付を送った。ビクトル氏がウィーンで受け取った根付はナチスの没収を免れて世界各地に散らばり、何世代にもわたり受け継がれた後、ようやく展示会を機にウィーンに戻って来た。これからは、ウィーンのユダヤ博物館で展示されることになる。(c)AFP/Sophie MAKRIS