■人が食用にする魚や甲殻類も局所的に絶滅する恐れが

 実例としては、2011年にオーストラリア西部付近で10週間続いた海洋熱波では、生態系全体が壊滅的な状態に陥り、商業漁業の対象種となる魚が低水温域に移動し、そのまま戻って来なくなった。2011年の熱波では、広大な藻場や「ケルプ(コンブ類)の森」が壊滅するとともに、それらに依存する魚やアワビなどが全滅した。

 一方、浅水域での熱波の一番の被害者と言えるのはサンゴだ。昨年10月に国連(UN)の気候変動に関する関連組織が発表した報告書によると、たとえ世界の平均気温の上昇幅を努力目標の1.5度未満に抑えられたとしても──科学者からは不可能な目標という声も出ている──最大90%のサンゴが死滅する可能性が高い。

 過去の研究では、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定(Paris Agreement)」が目標に掲げる気温上昇幅を2度より「かなり下」に抑制することに成功しても、海洋熱波の頻度、強度、継続期間は急激に増大するとされている。研究チームは今回の論文で、海洋熱波の頻度と強度が増大すると、漁獲高の減少や地球温暖化の促進などによって、人にも直接的な影響が及ぶと指摘している。

「人が食用にする魚や甲殻類は、局所的に絶滅するかもしれない」「さらに海草類やマングローブは、極度の高温に見舞われると蓄えている二酸化炭素を放出する可能性がある」と、スメール氏は話した。

 人為的な温暖化で地球が加熱されると、過剰な熱の約90%を海洋が吸収してきた。だが、この「熱吸収スポンジ」がなければ、気温は耐え難い高さにまで上昇していくとみられている。(c)AFP/Marlowe HOOD