■さよなら、ママ

 別の男児ペドロ君(3)も、母親と再会していない。母親のVさん(25)は実母で、4月に亡命申請を行ったが、それ以前に1度、米国から国外退去となったことがあった。

 母親はテキサスで勾留され、ベドロ君は1か月を保護施設で過ごした後、当局によって大叔母の家に送られた。大叔母は「この子はとても悲しそうだった」と話した。電話口で母親と話したペドロ君が言ったのは「ママ」と「バイ」だけだった。

 Vさんのように過去に1度、米国で国外退去処分となったことがあり、再び入国を試みた場合の顛末(てんまつ)を知らない移民もいる。

 また大人を伴わずに子どもだけで米国境を越えれば、自動的に居住資格が与えられるという中米で広がる偽りのうわさを信じて、子どもだけで入国する例も多い。

「コヨーテ」として知られる密入国あっせん業者らがこうしたうわさを広め、5000ドル(約55万円)から1万5000ドル(約165万円)の費用で子どもだけを送るよう家族をけしかけている。米国に入国できたとしても、英語を一切話さない子どもが、独りで判事の前に出る羽目になりかねない。

 だが、米シンクタンクのウッドロウ・ウィルソンセンター(Woodrow Wilson Center)で中米プログラムを担当するエリック・オルソン(Eric Olson)氏は、子どもたちが米国でどんな困難に遭おうとも、 ギャングの支配下で過激な暴力がはびこる極貧社会のホンジュラスやグアテマラ、エルサルバドルといった自国にとどまるよりはましだろうと語る。彼らの自国では「生存のための余裕、たとえ貧しくてもまともな人生を送る余地は、ほぼ皆無だ」とオルソン氏。それに比べれば「米国境における状況の方がひどいということはない」

(c)AFP/Leila MACOR