■利害関係

 カトマンズの一部病院も、救助ビジネスとのつながりが指摘されている。AFPが企業登録書類を調べたところ、旅行会社の多くは、病院やヘリコプター運航会社と財政面で結びついており、そこには利害関係が見て取れる。

 ヒマラヤン・ソーシャル・ジャーニーでは、登山客を病院に連れて行ったガイドに病院から仲介料が手渡されることになっているが、これは医療機関との「関係を維持する」ために必要不可欠なものだと、サプコタ氏は説明する。

 また、同社は昨年、ヘリコプター運航会社、アルティチュード・エア(Altitude Air)に10%出資したことも明らかにしている。

 4月にエベレストの周辺地域を訪れた匿名希望のドイツ人登山客は、ブローカーからカトマンズまでヘリコプターで戻ることを提案されたとAFPの取材に話した。この時、費用は保険会社に請求すると言われたという。「これを救助として認める医師を知っているとブローカーは言っていた」

 ヒマラヤでの救助の大多数は、高地での低酸素が原因で起きる高山病に関連したものだ。頭痛、吐き気、食欲不振などの症状が現れる。唯一の治療法は下山することとされているが、低地に戻ると症状は治まり、医療救助が本当に必要だったのかが分からなくなる。

「(登山客は)下山する頃には元気になっている」と、カトマンズのトラベルクリニック「シベック(Ciwec)」の医師、プラティバ・パンディ(Prativa Pandey)氏は言う。そして、それでも医師には闇のビジネスを排除する権限はなく、「(われわれは)疑わしい患者でも治療せざるを得ない」と続けた。

 しかし、保険会社も、まん延する詐欺行為に気付き始めている。業界関係者によると、英大手保険引受人と取引する保険会社のいくつかは、ネパール向けの海外旅行保険の提供取りやめについても検討しているという。これについては保険会社が顧客を警戒させることを嫌っているとして、関係者は匿名を条件に取材に応じた。

 ネパールの文化・観光・民間航空省は複数の情報源からの苦情を受け、6月初めに保険金詐欺疑惑で調査を開始した。担当高官がAFPに明らかにした。同高官は「調査は(さらに)1か月かかるかもしれない。調査開始当時は、問題の大きさを認識していなかった」と述べた。詳細については語らなかった。

 だが、地元メディアの報道によると、旅行会社やヘリコプター運航会社など約500社が調査の対象となっており、その中にはサプコタ氏の経営するヒマラヤン・ソーシャル・ジャーニーも含まれているという。サプコタ氏は観光省から連絡はなく、いかなる不正行為もしていないと主張している。(c)AFP/ Annabel SYMINGTON