■「うそをつくよう言われた」

 オーストラリアからネパールを訪れた登山客のジェシカ・リーブスさんは、2017年10月にエベレストのベースキャンプ近くで風邪の一般的な症状を訴えた。すると、付き添いのガイドからヘリコプターで下山するよう強く勧められたという。

 AFPの取材に応じたリーブスさんは、「もしこのまま続けると非常に危険なことになりかねない。リスクを負うよりもすぐに下山した方がいい」と言われ、ガイドから「ヘリコプターに乗るよう何度も勧められた」ことを明らかにした。

 リーブスさんによると、同じグループの登山客9~10人は、最終的にヘリコプター3機に分乗してカトマンズに戻ったという。しかしこの時、各自が別々のヘリコプターで下山したと言うよう指示されたという。

 この下山をめぐり、現地旅行会社「ヒマラヤン・ソーシャル・ジャーニー(Himalayan Social Journey)」は、各登山客が契約していた保険会社に費用を全額請求し、その過程で3万5000ドル(約390万円)を着服したとリーブスさんは主張する。

「彼らは私たち全員に、保険会社にうそをつくよう求めた。それぞれのヘリコプターには3~4人乗っていたのに、1人ずつしか乗っていなかったと話すよう言われた」

 ただ、リーブスさんの保険契約はすでに失効していたため、この件で保険金の請求は受理されなかった。

 これに対して、ヒマラヤン・ソーシャル・ジャーニーの経営者、ラム・サプコタ(Ram Sapkota)氏は、各保険会社に全額を請求していないと反論する。同氏は、「(彼らが)同乗した計算で保険金を請求し、われわれは(それにのっとって)保険会社から支払いを受けた」とし、そうした主張は「偽り」だと一蹴した。

 さらにサプコタ氏は、ヒマラヤ山脈でのヘリコプター救助が増加しているのは、怠惰で心配性の登山客らのせいだと指摘する。「一人の具合が悪くなると、グループ全体が『不安だ。早く帰りたい』」と言い出すのだ」と話した。

 この「仲介料を搾取する仕組み」の中にいる関係者らへの取材を通じ、ガイド、ツアー会社、ロッジのオーナー、チャーター会社がブローカーとしての役割を果たしていることが分かった。救助費用のおこぼれにあやかろうと、それぞれがヘリコプター運航会社とかかわりを持っていた。

 カトマンズを拠点とするヘリコプター運航会社のマネジャーによると、救助のための飛行1回に付き、ブローカーには500ドル(約5万5000円)を支払っているという。匿名を希望するこの男性は「仲介料を払わなければ、仕事をもらえない」と述べた。