【10月10日 東方新報】日系イギリス人作家のカズオ・イシグロ(Kazuo Ishiguro)氏が5日、2017年ノーベル文学賞(Nobel Prize in Literature)を受賞することが決まった。報道の15分後には中国の文学ファンも書店に走り、イシグロ氏の小説を購入。すぐに売り切れてしまったという。国慶節・中秋節の休みを返上して職場に戻り、イシグロ氏の本の注文や印刷の手配に当たった書店や出版社もあったという。

 日本ではこの時期、「ハルキスト」と呼ばれる村上春樹(Haruki Murakami)氏のファンが毎年、ため息をつくのが恒例になったが、中国でも村上氏のファンは多く、ウェイボー(微博、Weibo)などでは残念がるコメントも多かった。一部では、「受賞者は日本人だから、今年のノーベル文学賞は村上春樹に一歩近づいたんじゃないか」などとするコメントもあった。

 イシグロ氏は中国文学界でも高く評価されており、作家で清華大学文学院の格非(Ge Fei)教授は「イシグロ氏の受賞は納得できる。彼の作品はほぼ読んだが、この時代にとって重要な作家の1人。生まれは日本の長崎県で、育ちはイギリスという2つの違った文化的視点が彼の作品に包容力を生んでいる」とコメントしている。

 中国社会科学院文学研究所の元所長で陸建徳(Lu Jiande)研究員は、「中国では日本人作家といえば村上氏が人気だが、90年代に1度、『イシグロブーム』があった。イシグロ作品は『ノルウェイの森(Norwegian Wood)』のように有名ではないが、人間どうしの複雑な感情を書かせたらイシグロ氏はまさに一流作家だ」と話す。

 『充たされざる者(The Unconsoled)』を中国語に翻訳した、浙江大学外国文学研究所で郭国良(Guo Guoliang)副所長は「作家はみんな非常に繊細だが、日系イギリス人というイシグロ氏は異文化の融合と衝突に関しては特に敏感だと想う。小さい頃から現在まで、イシグロ氏自身のアイデンティティ──国籍、文化、個人の身分というものについて考えているのだと思う。これは日本人作家には理解できない感情なのかもしれない」とコメントしている。

 『忘れられた巨人(The Buried Giant)』を中国語に翻訳した、上海対外経貿大学の周小進(Zhou Xiaojin)副教授は「多くの人はイシグロ氏の日本人的特徴に注目するかもしれないが、それは彼のたくさんある特徴のほんの一部でしかない。彼の作風はとても落ち着いていて、行間を読ませるというか、アーネスト・ヘミングウェー(Ernest Hemingway)のような、比較的アジア人に好まれるスタイルだ」と話す。

 上海訳文出版社のイシグロ作品責任者である馮涛(Feng Tao)氏は「当社は『夜想曲集―音楽と夕暮れをめぐる五つの物語(Nocturnes: Five Stories of Music and Nightfall)』から版権を取り、現在では彼のすべての作品を中国語に翻訳し、出版できるようになった。我々は彼の美学に惚れ込み、彼の本を世に出している」と話した。また、「イシグロ氏はあまり他人と交流するのが好きではないという。作品を書くときも黙々と書いて、創作期間も長い。彼が今、何を書いているのか誰も知らない。何年も前から彼を上海の書籍展覧会へ招待しているが、何かと理由をつけて断られ続けている」とも話した。(c)東方新報/AFPBB News