【5月11日 AFP】ドイツ生まれのフランス人で変わり者の天才数学者、アレクサンドル・グロタンディーク(Alexandre Grothendieck)氏による1万8000ページ近くに上る手書きメモがこのほど、母校の仏モンペリエ大学(University of Montpellier)によってインターネットで公開された。

 2014年に86歳で死去したグロタンディーク氏は「数学、代数幾何学の分野全体に革命をもたらした」と、この数学者の名前を冠した同大学の研究所のジャンミシェル・マラン(Jean-Michel Marin)所長は話す。

 マラン所長は、AFPの取材に「彼のメモ書きから恩恵を得るには、専門家が複数で取り組んでも数年はかかる」としながら、「そこに記されていることを理解できる人は、世界に数百人ほどだろう」と語った。

 今回公開された文書は、自身の教え子だったジャン・マルゴワール(Jean Malgoire)氏にグロタンディーク氏自らが遺贈した2万8000ページに及ぶ手書き文献の一部。マルゴワール氏は今もモンペリエ大で教鞭を執っている。

 文書公開のため、グロタンディーク氏の子どもらが、ネット上での出版権をモンペリエ大に譲渡した。同氏が「いたずら書き」と呼んだ手書き文献の物理的な所有権は子どもらが保持したままだという。

「文献には、独創的な研究成果だけでなく、(グロタンディーク氏の)思考を理解するための助けとなる内容も含まれている」と、マラン所長は話す。

 グロタンディーク氏は1966年、「数学のノーベル賞」として知られるフィールズ賞(Fields Medal)を受賞した。だが当時、急進的な環境保護論者ならびに平和主義者となっていた同氏は、ベトナム戦争(Vietnam War)や旧ソ連の軍拡政策に反対していたため、モスクワ(Moscow)で行われた同賞授与式への出席を拒否した。

 グロタンディーク氏をめぐっては、母校モンペリエ大の学生時代、それぞれが数年の作業を要するとみられていた課題14題のどれか一つを選ぶよう教授2人から提示され、その数か月後にそれらすべてを終えて戻ってきたという逸話がある。

 グロタンディーク氏は1991年、家族とも離れて隠遁生活に入り、仏ピレネー山脈(Pyrenees)にある小さな村で暮らし、2014年に死去した。(c)AFP