【10月5日 AFP】位相幾何学(トポロジー)の研究者は、コーヒーカップとドーナツの違いが分からない。4日に2016年ノーベル物理学賞(Nobel Prize in Physics)の栄誉を受けた、一般にはあまり知られていない科学の一分野について、こんなジョークがある。

 このジョークは、トポロジーを完璧に言い表している。トポロジーは、物質の形を、中核的性質を失うことなく新しい形状に完全に変形させることを可能にする仕組みを説明する学問だ。

 ジョークの中の例えで言えば、コーヒーカップとドーナツは全く同一のものだ。これらがゴムでできているとすると、一方を曲げたり伸ばしたりすれば、その本質を変えずに、もう一方の形に変えることができるだろう。

 カップの取っ手の部分と、ドーナツの中央には、それぞれ穴が1つある。これにより、この2つは「位相同形」とみなされる。

 スペイン・サラゴサ大学(University of Zaragoza)理論物理学部のマヌエル・アソレイ(Manuel Asorey)氏は「ティーカップの取っ手の穴に指を通すことは可能だが、ジャガイモには指を通すことができない。そのため、これらは2つの異なる位相オブジェクトのカテゴリーになる」と説明する。

 長い間、数学の中だけの存在だった、基本的な形状の奇妙な宇宙を対象とするこの分野が、物理学の領域に導入されたのはほんの数十年前のことだ。

 トポロジーは今日、スーパーコンピューターから超電導体までに及ぶ、多数の実用化が見込まれる物理学の幅広い分野に急速に拡大している。

 物質を「トポロジカル状態」にすることで、エネルギーや情報を、現在可能なレベルよりさらに遠くへ、より高速に運べる日が来ることを、科学者らは期待している。

「先駆者たちは、トポロジーが物理学と何らかの関連性があるかもしれないとみていた」とアソレイ氏は言う。

 アソレイ氏はAFPの取材に、ノーベル物理学賞受賞者のデビッド・サウレス(David Thouless)氏、ダンカン・ホールデン(Duncan Haldane)氏、マイケル・コステリッツ(Michael Kosterlitz)氏について「だが実用への応用が明白になったのはこれら3氏のおかげだ。彼らはトポロジーが目に見えるものではないことに気が付いた」と語った。「今では、これらのアイデアが、物理学の多くの他の分野に広がっている」